共同創造 Co-production 資料15: 哲学対話

共同創造をしていくにあたって、どんな風に対話の場を作れるかということは、とても大きいテーマだと感じています。そんな中、ここ数年(私にとって)耳にする機会が増えた、哲学対話の考え方が、共同創造でしようとしていることと通じている部分が多いように感じています。

NHKの解説アーカイブスに出ている解説「『考える力』を育てる『哲学対話』」(視点・論点) 2020年03月31日 (火) (東京大学 教授 梶谷 真司)がわかりやすかったです!

それによると、哲学対話は、哲学の思想を教えるのではなく、思考力を育てるものであり、「対話」がその主な方法として開発されたとあります。そして哲学対話は輪になって行う、「輪になる」ことには意味があり、円となることで前も後ろもなくお互いに対等で誰でも発言していい場となる、とあります。そして、話し合うテーマは自分たちで決める、人から与えられたのではなく、自分たちで探し、決めた問いだからこそ、自ら考えることができる、とあります。また、対話のルールはその実践者によって異なるが、この解説をしている梶谷真司さんのルール

1.何を言ってもいい
2.人の言うことに対して否定的な態度をとらない。
3.お互いに問いかけるようにする。
4.発言せずただ聞いているだけでもいい。
5.知識ではなく自分の経験にそくして話す。
6.意見が変わってもいい。
7.話がまとまらなくてもいい。
8.わからなくなってもいい。

NHK解説アーカイブス 「『考える力』を育てる『哲学対話』」(視点・論点) 2020年03月31日 (火)  東京大学 教授 梶谷 真司 より引用)

が紹介されていました。

この解説では、”自由に発言し、相互に問いかけることで、互いを尊重し、違いを受け止められるようになります。”、”理解できない相手ですら、考えるきっかけを与えてくれる存在として受け入れられます”ということや、結論を急がないこと、安心して意見を言える人間関係、何でも話せる場を作ることについて書かれています。

研究チームの自由な感想:
それぞれの違いを尊重しつつ、それぞれの意見や考えが出されることが、共同創造では必要なので、この哲学対話の考え方もとても大きなヒントとなりそう。

共同創造 Co-productionつぶやき

医療保健領域での共同創造を考えるにあたって、病や障害、あるいは困難を生きる人たちの知や、その共有のされ方についてと、その人たちと専門職者・支援者との関係のあり方に意識を向けることは不可欠だと思っています。たとえばセルフヘルプグループや当事者会、これまでの医療保健領域での支援するされるの関係、社会の中で患者や障害者がどのような対応をされてきたかについても、共同創造を考える上で重要なテーマだと感じます。

2021年2月にあった東京大学の国語の入試問題で、松嶋健「ケアと共同性――個人主義を超えて」の文章が使われていました。共同創造について扱っているわけではないのですが、自助グループやケアについて述べている文章です。

この文章では、田辺繁治の調査したタイのHIV感染者とエイズを発症した患者による自助グループを例に出して

”医学や疫学の知識とは異なる独自の知や実践を生み出していく”

ことや、そこに

”非感染者も参加するようになり、ケアをするものとされるものという一元的な関係とも家族とも異なったかたちでの、ケアをとおした親密性にもとづく「ケアのコミュニティ」が形作られていった”

といった内容と、糖尿病の外来でのフィールドワークからアネマリ-・モルが

”糖尿病をもつ人びとと医師や看護師の共同実践に見られる論理”

の特徴から取り出した「ケアの倫理」について考察し、

”ケアとは、「ケアをする人」と「ケアをされる人」の二者間での行為なのではなく、家族、関係のある人びと、同じ病気をもつ人、薬、食べ物、道具、機会、場所、環境などのすべてから成る共同的で協働的な作業なのである。”

といったことが書かれていました。

理系・文系のどちらの受験生も真剣に読んで考える入試問題の中にこういった内容が含まれていたことに、なんだかうれしくなったのでした。

なお、松嶋健. ケアと共同性――個人主義を超えて. は、松村恵一郎・中川理・石井美保編「文化人類学の思考法」世界思想社. 2019 に全文があります。