共同創造Co-production資料34 精神保健医療研究での共同創造(青年期)

またまた研究の共同創造に関する文献です。World Psychiatryという精神医学領域の学術誌にここ数年、その疾患状況を経験した人(患者としての体験のある人)と学術関係者(研究者)によって執筆された論文が連続で掲載されています。

Fusar-Poli P, Estradé A, Esposito CM, Rosfort R, Basadonne I, Mancini M, Stanghellini G, Otaiku J, Olanrele O, Allen L, Lamba M, Alaso C, Ieri J, Atieno M, Oluoch Y, Ireri P, Tembo E, Phiri IZ, Nkhoma D, Sichone N, Siadibbi C, Sundi PRIO, Ntokozo N, Fusar-Poli L, Floris V, Mensi MM, Borgatti R, Damiani S, Provenzani U, Brondino N, Bonoldi I, Radua J, Cooper K, Shin JI, Cortese S, Danese A, Bendall S, Arango C, Correll CU, Maj M. The lived experience of mental disorders in adolescents: a bottom-up review co-designed, co-conducted and co-written by experts by experience and academics. World Psychiatry. 2024 Jun;23(2):191-208. doi: 10.1002/wps.21189. PMID: 38727047; PMCID: PMC11083893. https://doi.org/10.1002/wps.21189

(青少年における精神障害の体験:経験による専門家と学者の共同デザイン、共同実施、共同執筆によるボトムアップレビュー)

この研究は、自身の経験による専門家(experts by experience)(患者、その家族やケアする人)と学者からなる共同チームを立ち上げ研究を実施したとのことです。以前も同じ研究者の参加しているチームの論文(うつ、サイコーシス)をご紹介しました。このチームでたくさんの文献検討研究をしたということですね。)

この研究は、「青年期の精神障害の内的主観的体験」、「より広い社会での青年期精神障害者の体験」、「精神医療を受ける青年期精神障害者の体験」についてワークショップを開催し、全体として18人の当事者経験のある若者に参加してもらい、分析が行われたとのことです。

「青年期の精神障害の内的主観的体験」としては、気分障害では、アイデンティティの変化を経験する、圧倒されるような激しい感情の経験、自分の心の中に閉じ込められた感じ、周囲の世界が消えていくのを見る、精神病性障害では、生活世界と自己における広範な変化の経験、自ら出てしまった魚のように感じる、といった感じで、ADHD、自閉症スペクトラム障害、不安障害、摂食障害、外在化障害、自傷それぞれについて、当事者の声が掲載されている質的研究からの引用と、ワークショップに参加した当事者経験のある若者の声が掲載されています。

 

この論文を読んでいて、これまでの質的研究からの引用と、ワークショップに参加した若者の実体験から出ている言葉により、本人の体験が鮮やかに感じられた気がします。医学や看護学の教科書や疾患の理解は、本人以外の人からの視点で説明され、外側から見る視点が多いのですが、もっと知りたいのは本人にはどのような経験がされているか、だな、と改めて感じました。特に精神科領域では、本人にとっての個別のリカバリー、ご本人が生きやすくなることが何より重要なわけで、ご本人からの視点を知ること、そしてそれは皆違うということを知ることが重要だと感じました。
東京大学コプロダクション研究チーム 宮本有紀