共同創造というとリカバリーカレッジでの実践がすぐに思い浮かぶのですが、医療やケアの実践だけでなく、研究でも共同創造が大事だと言われるようになっています。
そんな中、「誰もが参加できる研究をする:共同創造を行う際の倫理のガイダンス」(かなりの意訳です。原題は「Doing Research Inclusively: Guidance on Ethical Issues in Co-production」)という、共同創造による研究を倫理的に行うためのガイドラインを見つけました。
Strnadová, I., Dowse, L., Garcia-Lee, B., Hayes, S., Tso, M., & Leach Scully, J. (2024). Doing Research Inclusively: Guidance on Ethical Issues in Co-Production. Disability Innovation Institute, UNSW Sydney. https://www.disabilityinnovation.unsw.edu.au/inclusive-research/guidelines
これは、オーストラリアのUniversity of New South Wales (UNSW)という大学のDisability Innovation Institute(障がいイノベーション研究所)という、2017年に設立されたセンターから公開されているものです。
共同創造研究が大事、市民共同参画の研究が大事、と言われていますが、いわゆる「研究者」と名乗ってきたわけではない人たち(患者、利用者、家族など)も研究に関わるということは、これまで医学研究の倫理等を考える際に想定されてきておらず、これまでの研究計画や倫理申請での「当たり前」とは異なる視点が必要とされています。このガイダンス文書は、共同創造研究を行う研究者が、研究計画を考えたりその研究の倫理申請をしたり、そのような研究の倫理的側面を審査する研究倫理委員会が理解を共有するために作られたそうです。
この文書には、研究者や倫理委員向けのPDF版と、情報を簡潔にわかりやすく書いたEasy Read版があります。
PDF版には、障害領域での研究における共同創造での倫理に関する重要点として、
- 共同創造は誠実性を高める(CO-PRODUCTION ENHANCES INTEGRITY)
- 申請過程に(共同創造研究者が)アクセスできない(INACCESSIBLE APPLICATION PROCESSES)
- 申請過程における害(HARM IN THE APPLICATION PROCESS)
- 共同創造についての誤った思い込み(COUNTERPRODUCTIVE ASSUMPTIONS)
- 矛盾する倫理原則(CONFLICTING ETHICAL PRINCIPLES)
- 倫理審査の過程に不慣れ(UNFAMILIARITY WITH THE PROCESS)
- 経験と動機のばらつき(VARIABILITY IN EXPERIENCE AND MOTIVATION)
- 対立ではなく学ぶ(EDUCATION RATHER THAN CONFRONTATION)
についてあげられています。また、この文書では特に以下の項目それぞれについて留意点、研究者として考えること、倫理委員会として考えることが記載されていました。
- 共同創造での関係性(Relationships in Co-Production)
- 共同創造の過程(Processes of Co-Production )
- 共同創造における役割(Roles in Co-Production)
- 共同創造で得られるものと危険(Benefit and Risk in Co-Production)
- 共同創造における脆弱性と能力(Vulnerability and Capacity in Co-Production)
- 共同創造の質(Quality in Co-Production)
- 倫理的な共同創造によってよりよい実践を(Building Better Practice in Ethical Co-Production)
共同創造について、英国の資料を目にする機会が多いのですが、オーストラリアからもこのように資料が出されていて、それらが誰にでも読める形で公開されていることに、感謝を覚えますし、インターネットやAI翻訳などの普及で、伝達もされやすくなっているだろうと感じました。
もちろん、共同創造は参加する人によって異なるはずですし、文化が異なればもちろん共同創造のありかたも違うだろうとは思いますので、イギリスやオーストラリアのものも、ただそのまま日本に持ち込むというよりは日本での参加者の方たちと話し合っていくことが重要であるとは思います。
東京大学コプロダクション研究チーム 宮本有紀