共同創造Co-production資料39: 精神科領域の共同創造に関するレビュー論文

共同創造に関する論文の紹介です。

コ・プロダクション(共同創造)に関する実践や実践に関する研究が広がっています。今回ご紹介するのは、精神保健サービス(精神科医療や福祉)における共同創造の考え方についてのレビュー(文献検討論文)です。

論文情報:

Norton MJ. Co-production and mental health service provision: a scoping review. Irish Journal of Psychological Medicine. Published online 2025:1-14. doi:10.1017/ipm.2025.16
https://doi.org/10.1017/ipm.2025.16

題名は、
Co-production and mental health service provision: a scoping review.
(共同創造と精神保健サービスの提供:スコーピング・レビュー)
です。

共同創造に関する論文は多数発表されていますが、この文献研究では、精神保健領域でのリカバリーの考え方と共同創造の原則について文献検討をすることを目的とし、著者の設定した基準により、10本の論文を文献検討の対象論文としています。

共同創造の定義:この10件の研究のうち、共同創造という用語の定義を提示していた8件の研究で、「すべての利害関係者が共通の目標に向かって協力する」、「権力の再分配」、「プロセスに関与する利害関係者が多分野からであること」などが共同創造の定義として述べられていました。

共同創造の利点:困難の経験について話し合うための場ができる、少数派の声を聴くことができるなどは複数の研究で述べられていた。ほかには、それぞれ研究により述べられる利点が異なっていました。

共同創造のデメリット:デメリットを述べた研究では、組織文化がまずあげられていました。時間不足やリソース不足なども個々に含まれる。また、共同創造を行う力の不足も挙げられていました。

この文献検討対象となった研究の中には、急性期入院医療で共同創造を実践することでリスクが軽減されるという示唆があったことは新しいと述べられていました。

考察では、共同創造の考え方が抽象的であり、より理論的な研究が必要であることや、解釈主義的でまだ測定不可能な概念であるのに対し、実証主義的な概念(エビデンスに基づく実践など)との葛藤についても触れられています。

共同創造にとても関心があり、リカバリーカレッジ実践にも参加させていただいています。しかし、共同創造の定義とは、とか、共同創造の目的とか、「真の共同創造」なのかどうなのか、とかなると、はっきりと明言出来ない自分がいます。このレビューを読んでもやっぱりよくわからない、という気持ちになり、結局やっぱり共同創造の定義等は難しいのだな、とあらためて思いました。
東京大学コプロダクション研究チーム 宮本有紀