共同創造Co-production資料42: 大学での精神保健研究の患者市民参画

今回も、研究の共同創造に関連する資料のご紹介です。

論文情報:

Evans J, Da Cunha Lewin C, Fabian H, et al. Facilitators of and barriers to patient and public involvement in mental health research within university settings: a systematic review and meta-synthesis. Psychological Medicine. 2025;55:e297. https://doi.org/10.1017/S0033291725101748

題名は、
Facilitators of and barriers to patient and public involvement in mental health research within university settings: a systematic review and meta-synthesis
(大学における精神保健研究への患者・市民参加の促進要因と障壁:系統的レビューとメタ統合)
です。

研究領域で、患者・市民参画(Patient and Public Involvement: PPI)が重視されるようになってきています。
(このPPIと共同創造は、完全に同じというわけではありませんが、その根底にある価値観は重なっていると思っております。)

この研究では、研究データベースを検索して文献を収集し、最終的には51件の論文から精神保健領域での患者市民参画に関する障壁と促進要因をまとめました。また、この研究には、精神疾患の当事者経験をもつ研究者達が参加していると記載されています。

研究を構築するにあたっての手続き的な面では、PPIのための資金や人材が限られていたり、競争的環境、時間的制約などが障壁として挙げられ、PPIを促進するのに役立つ仕組みとしては、申請にPPIを入れ込むことが挙げられていました。

また、研究の過程での力の不均衡、たとえば研究者が研究プロセスを握っていることも障壁として挙げられていました。また、参加している人たちの多様性が欠如しており、社会から疎外されている人種や識字に困難のある人々がしばしば排除されることについての懸念が挙げられていました。

PPIに価値を置かない組織文化も大きな障壁とされており、研究者がPPIを新しい仕事の方法としてとらえ、当事者経験の価値についてのトレーニングも必要なのではないか、と記されています。

人間関係の構築、オープンで誠実で定期的なコミュニケーションはPPIを促進する要因とされていました。

参加者は、研究や学術的な環境に慣れていないことからくる自信のなさを体験することも多く、参加者が尊重され、意見を言ってみようと思えるような、強力的な環境、安全な空間の重要性も挙げられていました。

今後の研究への市民参画に関する示唆として、権力の再分配(the redistribution of power)、能力開発(building capacity)、安全な取り組み環境(safe working environments)が挙げられていました。

能力開発に関しては、当事者に研究に関するトレーニングを提供することに重点が置かれているが、研究者の能力開発にはあまり焦点があげられていなかったことも、この研究の発見として記載されています。

 

この論文を読みながら、発言しても大丈夫と思えるチーム、安全と感じられるような配慮を互いに行えるチームは、患者・市民だけでなく、研究者にとっても重要であると感じました。また、患者や市民に研究のスキルを研修することに重点が置かれがちで、研究者が生活体験に関する価値を学ぶトレーニングを積むことなどはあまりなされていないということにも思い当たるところが多々ありました。
東京大学コプロダクション研究チーム 宮本有紀