日本のリカバリーカレッジ(2024年8月時点)

共同創造の実践例としていつもご紹介させていただくリカバリーカレッジ。
日本でリカバリーカレッジの理念(共同創造で運営されていて、誰でも参加できる、学びの場)に基づいて活動しているとお聞きしているカレッジの一覧を作りたいと思いつつ、全部を網羅はできていないのでかえってご迷惑をおかけしちゃうかな、と思い掲載を迷っておりましたが、以前掲載した、2022年10月時点のリストも参考になった、と言っていただいたこと、また、その後もオープンしているとお聞きしているので、私の知っている範囲で、公開されているウェブサイトやフェイスブックページなどのリンクと共にあげさせていただきます。(2024年8月)

    • ここに載っていないリカバリーカレッジもあると思います。リカバリーカレッジの認定機関があるわけではありません。
    • リカバリーカレッジと名乗っていなくても、共同創造によって運営されていて、誰でも参加できる学び合いの場の実践をされているところもたくさんあります。
    • 現在活動をお休みしているところもあるようです。(2022年10月のリストに挙げていたカレッジで2024年8月時点では開講されていなくても、閉校したとお聞きしたわけではない場合には、掲載させていただいております)
    • カレッジによって、第一回講座をしました、とか、オープン、など表現が異なるのを宮本が勝手に「開校」と表現してしまっております。便宜上、講座の開催を「開校」とさせていただきましたが、どのカレッジも準備などの活動をもっと前からされています。
    • ここで掲載しているリカバリーカレッジは医療・福祉ではないものを挙げております。デイケアや福祉サービスの中で「リカバリーカレッジ講座」をされている組織もたくさんあるのですが障害のある人だけが対象となってしまうものはここには掲載しておりません。
    • どのカレッジの方ともご連絡が取れるのですが、今回は、個別の問い合わせなどはせず、あくまでも公開情報からわかることだけ掲載させていただきました。
    • 準備中のカレッジは、リカバリーカレッジの活動として公開されている情報やウェブページ等がある場合に記載させていただきました。
    • 情報は、宮本調べで、間違いもあるかもしれません。間違いなどに気づかれましたらぜひ教えてください。

リカバリーカレッジ (東京都三鷹市) 2013年開校
https://sudachikai.eco.to/pia/index.html

リカバリーカレッジたちかわ (東京都立川市) 2015年開校
http://recoverycollege.jp/tachikawa/

リカバリーカレッジ名古屋 (愛知県名古屋市) 2018年開校
https://recoverycollege-nagoya.com/

リカバリーカレッジみまさか (岡山県美作市) 2019年開校
https://www.facebook.com/recovery.college.mimasaka/

リカバリーカレッジOKAYAMA (岡山県岡山市) 2019年開校
https://rcokayama.jp/

リカバリーカレッジSAGA (佐賀県佐賀市) 2019年開校
https://m.facebook.com/profile.php?id=100068255426060

リカバリーカレッジあんなか (群馬県安中市) 2019年開校
https://www.facebook.com/recoverycollege.annaka/

リカバリーカレッジおおた (東京都大田区) 2020年開校
https://sites.google.com/edu.teu.ac.jp/recoveryota

リカバリーカレッジねやがわ (大阪府寝屋川市) 2021年開校
https://rcneyagawa.blog.fc2.com/
(新しいページがあるのか?わからず)

リカバリーカレッジふくおか (福岡県福岡市) 2021年開校
https://lilyfukuoka.jp/ac/rcf

リカバリーカレッジKOBE (兵庫県神戸市) 2022年開校
https://rcchauchaukobe.jimdofree.com/

リカバリーカレッジ高知 (高知県高知市) 2022年開校
https://linktr.ee/rc_kochi

リカバリーカレッジ炭都(福岡県筑豊地域) 2022年開校
https://www.recoverycollegetanto.com/

ディスカバリーカレッジmii (宮城県仙台市) 2023年開校
https://www.facebook.com/people/%E3%83%87%E3%82%A3%E3%82%B9%E3%82%AB%E3%83%90%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%82%AB%E3%83%AC%E3%83%83%E3%82%B8mii/61556610832682/

リカバリーカレッジ多摩(東京都多摩市) 2024年開校(プレ講座2023年)
https://plaza-de-en.com/rc.tama/

リカバリーカレッジぐんま(群馬県 高崎市・前橋市・玉村町を中心に) 2024年開校
https://rcgunma.com/

リカバリーカレッジ千葉(千葉県 佐倉・茂原・市原・千葉)2024年開校
https://shimin2023.wixsite.com/chiiki

リカバリーカレッジ ポリフォニー(東京都東久留米市)
生活訓練事業所として2018年に開所。生活訓練事業所のプログラムと以外に誰でも参加できるオープンカレッジを開催
https://rcpolyphony.webnode.jp/

リカバリーカレッジよこはま(神奈川県横浜市) 今後開校予定
https://rc-yokohama.com/

リカバリーカレッジおいでまいさぬき(香川県) 今後開校予定
https://rckagawa.jimdosite.com/

リカバリーカレッジosaka(大阪府 オンライン?)準備中
https://recoverycollegeosaka.amebaownd.com/

リカバリーカレッジHARIMA 準備中
https://note.com/recovery_harima/

リカバリーカレッジ岐阜 準備中
https://olive-trees.work/%E3%83%AA%E3%82%AB%E3%83%90%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%82%AB%E3%83%AC%E3%83%83%E3%82%B8%E3%82%92%E5%B2%90%E9%98%9C%E3%81%AB%E4%BD%9C%E3%82%8B%EF%BC%81/

どなたにもご迷惑がかかりませんように。と思いつつ、リカバリーカレッジにご関心のある方達がつながれると良いなと思い、公開されている情報を記載させていただきました。公開せずに近隣の方達と活動されている方達もいらっしゃると思います。みなさま今後ともよろしくお願いいたします。
東京大学コプロダクション&リカバリーカレッジ研究チーム 宮本有紀

共同創造Co-production資料32 利用者や家族とのパートナーシップ

World Psychiatryという学術誌に掲載されていたWPA(世界精神科協会)ニュースの記事です。

Männikkö, M., Cano, G.M., Savage, M., Sunkel, C., Javed, A., Ng, R.M.K. and Amering, M. (2024), Report by the WPA Working Group on Developing Partnerships with Service Users and Family Carers (2020-2023). World Psychiatry, 23: 307-308. https://doi.org/10.1002/wps.21221

“Nothing about us without us!”(私たちのことは私たち抜きで決めるな)は今や当然の流れとなっていると思われ、全てのことをその状態の当事者とパートナーシップで行うことが求められるようになってきていると思います。
そんな中で、心理社会的障害のある人たち(精神健康不調の経験のある人たち)とのパートナーシップでの活動の例(評議会メンバーにその状態の実体験をもつ人たちが必ず入る、など)がこのニュースではいくつも挙げてあります。

World Psychiatryという雑誌では、精神疾患のある人との共同執筆論文の掲載が続いていたり、共同創造に関する論説があったりと、組織をあげて共同創造や患者市民とのパートナーシップによる活動を重視し、推し進めているのだなということをこのところひしひしと感じています。このように影響力のある団体や学術誌がこのように発信していくことの重要性を感じます。
東京大学コプロダクション研究チーム 宮本有紀

リカバリーカレッジでの「学び」「教育」

リカバリーカレッジでの学びについて。
英国のリカバリーカレッジの説明では
Educational Approachという言葉が必ず出てきます。
これを日本語に訳すときに、教育的アプローチ、とか、教育学的アプローチと訳してきたのですが、
そして実際に、教育学的な考え方に基づくアプローチであることは確かだと思うのですが、
日本で「教育」と言ったときに出てくるイメージが、どうしても学校を連想させてしまい、
リカバリーカレッジで目指しているのは、いわゆる日本の学校ではないような気がする、、と仲間とよく話しています。
そのようなこともあり、日本語にするときに「学び」と言い換えたりしているのですが、これも厳密には違うのだろうなと思っています。

そして、英国のリカバリーカレッジ関係者の方たちが、リカバリーカレッジでの教育について語るときに出てくるのが
アンドラゴジー(成人学習理論)、成人学習、パウロ・フレイレです。
ここで説明できるど私自身は詳しくないのですが、これらはリカバリーカレッジの実践に関わるのであれば知っておくとよいことなのだろうなとは感じます。

パウロ・フレイレの「被抑圧者の教育学」や、アンドラゴジー、成人学習については、リカバリーカレッジについて知って学んだことでした。
成人学習について、日本のリカバリーカレッジの講座で扱ったり、あるいはリカバリーカレッジ関係者の勉強会などをやったりするのも良いのかもしれないなと思いました。
つぶやきでした。
東京大学コプロダクション研究チーム 宮本有紀

共同創造はいろいろな領域で

保健医療福祉の領域での共同創造のことばかり見てしまいますが、Co-production 共同創造はほかの領域でも実践されているようです。
持続可能性(サステナビリティ)の領域でも行われているようで、たとえば
Nature Sustainabilityという学術誌でも、
Chambers, J.M., Wyborn, C., Ryan, M.E. et al. Six modes of co-production for sustainability. Nat Sustain 4, 983–996 (2021). https://doi.org/10.1038/s41893-021-00755-x
サステナビリティのための共同創造の6つのモードという研究が2021年に発表されていました。

保健医療の領域でも共同創造は多様だと言われていますが、
持続可能性の課題に取り組むための共同創造も、多様であるようで、以下の6つのモードが挙げられています。
(1) researching solutions 解決策の研究
(2) empowering voices 声(コミュニティ)を力づける
(3) brokering power 権力の仲介
(4) reframing power 力の再定義
(5) navigating differences 違いの調整
(6) reframing agency 役割の再定義
それぞれに課題もあり、どれが最適と言えるわけではない、とのことです。
それぞれのモードで、共同創造の目的や、関与する人々が異なるようです。

正直なところ、自分自身があまり理解できたとは思えず、資料の紹介というところまで到達できない書き込みでした。。

保健医療との共通点や相違点がわかるといいなと思ったのですが、言葉が違うのか、文脈が違うのか、私には理解が難しかったです。保健医療領域の資料を読んでいても感じるのですが、共同創造のことを表現している文章は、時に抽象的だったり、その文脈を理解できないと想像ができなかったりして、なかなか難しいことがあると感じています。私の場合は、自分の活動と近い領域である精神保健医療に関しての共同創造が一番イメージがわきやすいように思いました。
東京大学コプロダクション研究チーム 宮本有紀

共同創造Co-production資料31 コ・プロダクションの理論と実践―参加型福祉・医療の可能性

共同創造について、斉藤弥生先生の
コ・プロダクションの理論と実践―参加型福祉・医療の可能性」2023年、大阪大学出版会 https://www.osaka-up.or.jp/book.php?isbn=978-4-87259-766-0
を拝読し、共同創造とうたっていなくても、日本でもこんなに多くの実践がなされていたのだなと気づきました。
保健医療領域で市民と共に作り上げ提供されている活動として以前から取り組まれてきたことに、医療協同組合等での実践があります。
この書籍では、斉藤先生とスウェーデンのVictor Pestoffらとの取り組みや、さまざまな協同組合での実践が紹介されており、とても興味深く、さまざまな組織やその在り方に関心がわきました。

それと同時に、以前からあった協同組合と共同創造が全く同じなのか、ほかにはどのような呼び名(?)のありかたがあるのか、など、考えたいことがたくさんあります。

共同創造というと、つい英国の情報や、オーストラリアなどの情報が目にはいってしまいますが、共同創造という言葉が使われる前から日本で以前から行われている実践や、北欧での住民参加実践などについてもっと知りたいと思わされました。
東京大学コプロダクション研究チーム 宮本有紀

共同創造Co-production資料30 精神保健医療研究での共同創造

またまた研究の共同創造に関する文献です

Soklaridis, S., Harris, H., Shier, R. et al. A balancing act: navigating the nuances of co-production in mental health research. Res Involv Engagem 10, 30 (2024). https://doi.org/10.1186/s40900-024-00561-7
(バランスをとる行為:精神保健医療研究における共同創造のニュアンス)

これは公開されている論文で、カナダのリカバリーカレッジで実際に共同創造に携わっている人たちが執筆している論文です。
この研究では、まず、著者らはどのような立場なのかを表1で記載していて、自分はどんな背景をもって、どんな社会階級で、というようなことがそれぞれの言葉で記載されています。

そして、この論文では、本人たちの参加型アクションリサーチで、自身たちの共同創造における4つの価値観

1. Navigating power relations together
権力や力関係に共に関与する

2. Multi-directional learning
多方面からの学び

3. Slow and steady wins the race
ゆっくりと着実に

4. Connecting through vulnerability
弱さを通してつながる

について記載しています。

この論文は、精神保健医療研究での共同創造、とタイトルにあり、実際にこの方たちで共同研究に取り組む中で生み出された研究であるということも記載されていますが、これは研究に限らず、共同創造のプロセスどれにも共通することかもしれないと感じました。

共同創造を本気で実践するのは簡単とは言い切れないと思いますが、そのことも含め、共同創造の過程で発見したことについてこのように記載されていることは貴重なことだと思いました。また、著者らが自分たちは何者なのか、研究者や研究対象としてどのように互いに関わるかについて考え、それをこの表のような形で記載していることに感銘を受けました。質的研究では、研究者がどのような立場でどのような視点でその研究に携わったかを記載することが多いと思いますが、量的研究では研究者は客観的な立場(というのがあたかもあるかのように)を求められ、研究者のことが言及されることはほぼありません。しかし、実際には研究者の背景、考え方はその視点や発言に大きな影響を与えており、そのことを無自覚なままに観察することの危険についてもこの論文から気づかされました。
東京大学コプロダクションチーム 宮本有紀

リカバリーカレッジの文化祭が名古屋市で開催されました(2024/2/24)

2024年2月24日(土)に、リカバリーカレッジ文化祭といって、全国のリカバリーカレッジが集まる催しが愛知県名古屋市で開催されました。

この、リカバリーカレッジの文化祭、というのは、全国のリカバリーカレッジで集まってみんなでお互いの講座などに参加したり発表しあったりしましょうよ、ということで2022年に岡山で第一回が、2023年は久留米で第2回目が開催されていて、今回の名古屋が第3回目でした。
その前から、リカバリーカレッジに関する報告会や研修会に全国のリカバリーカレッジの仲間たちが集まったり、リカバリーカレッジのつどいなどを開催してきたのですが、「文化祭」と名付けた催しとなってから、各地のリカバリーカレッジが持ち回りで開催をするようになっています。

名古屋の文化祭のチラシです↓。文化のみち撞木館という、趣のある素敵な会場でした。

リカバリーカレッジ文化祭 in 名古屋

共同創造Co-production資料29 精神保健医療は経験した人々との対等なパートナーシップが必要

今回は研究論文ではなく、世界の精神科領域の医療者や研究者に広く読まれている学術誌の諭説の紹介です。

Fisher, H.L. (2024), The public mental health revolution must privilege lived experience voices and create alliances with affected communities. World Psychiatry, 23: 2-3. https://doi.org/10.1002/wps.21149

ここでは、

  • 「精神健康を保ったり、精神健康の改善するための施策の立案、実施、評価は、実際に精神的不調の経験をもつ人たちが、対等なパートナーシップで参加することが望ましい」
  • 「実際にその状態を経験した人たちが住民の精神健康を改善するような研究や施策を主導するようになることが理想である」
  • 「社会から疎外された人々がこのような対話に参加できるようになるためには、社会的・経済的な支援と柔軟性が必要であり、現在の社会を苦しいものにしている不平等を再生産しないために極めて重要である」
  • 「予防の取り組みがマイノリティのコミュニティと共同設計され、理想的には草の根組織や地域社会を基盤とする組織と協力して実施されるようにすることが極めて重要である」
  • 「 影響を受ける人々や地域社会が関与しなければ、提案されている公的な精神保健介入策の多くは失敗する運命にある」

といったことが記載されています。

これらのことは、リカバリーカレッジなどの共同創造に取り組んだ人から話を聞いたり、自分自身で取り組んだりしてみて、実感をもってその通りだと感じることばかりです。これまで、医療や研究の世界では、医療者や研究者の集めてきた知見が重視される傾向があったと思いますが、患者や当事者の声を聴くことの重要性、対等なパートナーシップの重要性について、このような学術誌の論説に掲載されるということには大きな意味があると感じました。これは、共同創造に触れた人たち、共同創造ではなかったとしても当事者の声に耳を傾けた人たちで、これは本当に重要なことだと実感する人たちが増え、そうしないでいる(当事者の声を取り入れずにいる)ことの危険性が実感され出したということでもあるのだろうなと感じます。
東京大学 コプロダクション研究チーム 宮本有紀

共同創造Co-production資料28 その状態の実体験を持つ人と専門職者との共同研究

共同創造は、さまざまな領域のさまざまな内容について実践することが可能であり、そして実際に取り組まれていることと思います。
保健医療福祉領域の研究についても、これまでは研究者・医療者が研究をする者、医療を提供する者の立場で実施し、発表されることがほとんどでしたが、最近では患者・利用者の方々が自身の声を保健医療福祉の学会等で発表されたり発信されることも増えています。
それに加え、近年では、少なくとも保健医療領域では、研究への市民患者参画が求められるようになってきており、研究を共同創造で行われることも増えてきました。

ここでは、World Psychiatryという精神医学領域の学術誌に掲載されている、その疾患状況を経験した人(患者としての体験のある人)と学術関係者(研究者)によって執筆された論文をご紹介させていただきます。

Fusar-Poli, P., Estradé, A., Stanghellini, G., Esposito, C.M., Rosfort, R., Mancini, M., Norman, P., Cullen, J., Adesina, M., Jimenez, G.B., da Cunha Lewin, C., Drah, E.A., Julien, M., Lamba, M., Mutura, E.M., Prawira, B., Sugianto, A., Teressa, J., White, L.A., Damiani, S., Vasconcelos, C., Bonoldi, I., Politi, P., Vieta, E., Radden, J., Fuchs, T., Ratcliffe, M. and Maj, M. (2023), The lived experience of depression: a bottom-up review co-written by experts by experience and academics. World Psychiatry, 22: 352-365. https://doi.org/10.1002/wps.21111
(実体験としてのうつ(うつの生きられた経験):経験による専門家と学者が共同で執筆したボトムアップレビュー)

Fusar-Poli, P., Estradé, A., Stanghellini, G., Venables, J., Onwumere, J., Messas, G., Gilardi, L., Nelson, B., Patel, V., Bonoldi, I., Aragona, M., Cabrera, A., Rico, J., Hoque, A., Otaiku, J., Hunter, N., Tamelini, M.G., Maschião, L.F., Puchivailo, M.C., Piedade, V.L., Kéri, P., Kpodo, L., Sunkel, C., Bao, J., Shiers, D., Kuipers, E., Arango, C. and Maj, M. (2022), The lived experience of psychosis: a bottom-up review co-written by experts by experience and academics. World Psychiatry, 21: 168-188. https://doi.org/10.1002/wps.20959
(実体験としてのサイコーシス(サイコーシスの生きられた体験):経験による専門家と学者が共同で執筆したボトムアップレビュー)

上記研究は、それぞれうつについてとサイコーシス(精神病様体験)について、実際に自身の生活の中でその状態を生きた方たちやその家族、学者でさまざまな年齢層、性別、文化的背景をもつ人々が参加して執筆されました。(最初の3人の著者が同じなので同じ文献のように見えてしまうかもしれませんが、別々の論文です)

たとえば、うつの体験についての研究では、患者利用者経験のある人、その家族、学者などにより構成された研究チームで、うつ状態について自身の言葉で語っている質的研究を集め、そこで記載されている内容からうつ状態の主観的世界、社会的・文化的文脈の中でのうつ状態の経験、うつからの回復の経験に分類されました。
その後、上記により分類された内容を、この研究チームに属していないより広い患者・家族ネットワークに見てもらい、特に中低所得国や性的、社会的マイノリティの方たちも含まれるようにしながら、フィードバックを得てさらに豊かな内容になりました。そして、それらをグーグルドライブで共有しながら多くの参加を得て共同執筆された論文で、執筆に参加された方々は共著者となっています。

このように、保健医療の領域で、患者や市民と共に研究をする取り組みは増えています。日本でも、たとえば国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)という研究開発と研究環境整備の組織から助成を受けた研究事業で患者市民参画(PPI)に取り組んだ事例を紹介したりしています。
https://www.amed.go.jp/ppi/ppipractice.html

 

従来は、医療者や学者が疾患や症状について解説をした文章が教科書となり、医療者への教育に使われてきたと思います。もちろん、医療者から見える状態像が記載されており、それが間違いであるわけではありませんが、この論文のように実体験をした本人たちの語りがまとめられること、そして、その実体験のある人たちが執筆の過程に参加することにより、そのまとめ方や表現のされ方が医療者・学者視点に偏ることなく記載され、その状態を経験している人にとって大切なことが発信されやすくなるということで、とても意義のあることだと思いました。
東京大学コプロダクション研究チーム 宮本有紀

共同創造Co-production資料27 共同創造の測定と評価 その3

コプロダクション(共同創造)の資料の紹介で、学術論文で、Measurement and outcomes of co-production in health and social care: a systematic review of empirical studies(医療と社会福祉における共同創造の測定と成果:システマティックレビュー) の内容を、できるだけわかりやすく紹介することに挑戦してみることの続き(その3)です。

書誌情報:
Nordin A, Kjellstrom S, Robert G, et alMeasurement and outcomes of co-production in health and social care: a systematic review of empirical studiesBMJ Open 2023;13:e073808. doi: 10.1136/bmjopen-2023-073808
https://bmjopen.bmj.com/content/13/9/e073808.long
公開されている論文なので、どなたでも読めますし、Google 翻訳などを用いて日本語にして読むことができると思います。

今回は、結果の内容の続きです。

共同創造の測定に何を用いているか?
質的研究では測定尺度は使われていません。
量的研究で無作為化比較試験では、その介入に関連した健康側面に関する尺度と、その介入そのものを評価する尺度が使われていました。
量的研究で無作為化比較試験ではない研究では、それぞれの研究に関連して測定尺度が独自に作られており、そのほかその共同創造介入に関連した健康側面に関する測定尺度も用いられていました。
介入研究ではない記述的な量的研究では、それぞれの共同創造介入に関連した測定尺度が用いられ、そのうち一つは共同創造の過程での経験を測定するのに、その過程の交流の生産性に関する認識を測定するRelational Coordination Scale (RCS) を用いていました。
質的研究と量的研究の混合研究であった25件では、さまざまな尺度が用いられていました。すでに妥当性が確認された尺度が用いられているもの、先行研究で用いられた尺度と用いているもの、独自に作った尺度を用いているものがありました。研究によっては、共同創造過程に参加する患者利用者の経験を測定する調査票を用いたり、オーストラリアの研究で、オーストラリアの国立衛生医学研究評議会(National Health and Medical Research Council’s (NHMRC))の原則にどれくらいのっとった介入であったかを測定しているものなどがありました。

共同創造の成果として何が報告されているか?
さまざまなものが共同創造の成果として報告されていました。
質的研究では、実行された変革、優先事項の確認、合意、作られたツールや、持続可能性などについて述べられていました。
無作為化比較試験では、患者利用者を対象とした2つの研究で共同創造介入がよい結果であったことが報告され、自傷行為の減少と精神的不調の減少が示され、共同創造によって開発されたデジタルツールを継続して使用したいと望んでいました。
量的研究と質的研究による混合研究では、多様な成果が報告されていました。それらは4つに大別することができ、共同創造の成果とその過程、うまくいった要因、参加者への影響、学習成果でした。
成果とその過程は、たとえばケアの改善、社会的ネットワークが強くなる、などでした。
成功要因として挙げてあったものは、参加すること、緊密な関わりなどが当てられていました。
参加者への影響としては、ウェルビーイングの向上、敬意と自信、エンパワメントなどがありました。
学習成果に関しては、共同創造により学習成果が得られ、そこで学んだ原則というのがその後の向上や共同創造の発展に価値あるものとして述べられていました。

実践への示唆
この文献検討を行ったことでわかったこととして、共同創造の成果を測定する尺度はなく、推奨できるようなものもなかった。
著者らは、共同創造の過程で、プロジェクトの目的達成のためだけに共同創造が使われてしまい、共同創造の民主的原則が顧みられなかったり、参加者はその過程でよい経験をしていると感じていてもプロジェクトの目的が達成されていないというようなことのバランスを取ることに言及しています。

結論
結論として、共同創造に関する研究は、さまざまな測定方法を用いており、共同創造のよい成果が報告されていた。
この文献検討から、今後、共同創造過程におけるアウトプット、共同創造に参加することの経験、共同創造の成果の3つの観点から測定されるべきであると考えられる。

この文献検討論文は重要な論文だと思いつつ、内容が少し難解だったり、読むことに根気がいる部分などがありました。ここでご紹介しようと思わなければ、読み通せなかったかもしれません。お付き合いくださった方(がいるとすれば)、ありがとうございました。
私としては、最後の結論に記載されていた、共同創造過程におけるアウトプット(共同創造によって作り出されたもの)、共同創造に参加することの経験、共同創造の成果(共同創造によって作り出されたものからもたらされる成果)の3つの観点から測定されるべきである、ということはとても納得のいくことでした。
東京大学コプロダクション研究チーム 宮本有紀