共同創造Co-production 資料19続き2: 共同創造の実践

資料19「Public Services Inside Out: Putting co-production into practice」(2010年4月発行)
https://neweconomics.org/2010/04/public-services-inside
共同創造の実践 の中身のご紹介の続きです。(前回は資料19続き1 にPart 1とPart2をご紹介しました)

Part 3: Peer support networks ピアサポートのネットワーク

専門職だけでなく、ピア(仲間、類似の経験を持つ人々)のネットワークや、それぞれの人のネットワークを活用することが、知識を得たり変化が起きたりすることを支えることの最善の方法である

実践例として Headway East London(脳外傷を受けた人々のデイセンター。自ら脳外傷を受け、リハビリや職場復帰をしようとした経験のある方たちがスタッフとして雇用されている。また、メンバーもセンターの業務に関わっている。また専門職との関係とは別に、ピアサポートのつながりを築いている。)、Multiple Sclerosis (MS)Socieity、User voice(再犯を防ぐことができるのは犯罪者だけだ。刑務所プログラムをより効果的なものとし、犯罪者の声をその更生に活かすために共同創造を中心に据え、過去に犯罪を犯したことのある人が、現在刑務所に入っている方たちと一対一のピアメンタリングを行ったりしている)

Part 4: Blurring distinctions  区別をなくすこと

サービスの構築や提供を構成しなおすことで、専門職と利用者の区別、提供者と消費者の区別をなくす

実践例
Chard Community Justice Panel:Chardという地域で、遠くの裁判所ではなく、地域で裁判をできるように、地域住民と裁判のプロセスを作り、司法の警察だけでなく、地域住民によって構成される司法委員会が、反社会的行動をした人の話を聞いたり意見を述べたり、Acceptable Behaviour Contract (許容行動契約?好ましい行動をするよう命じる)を述べる取り組みをした(たとえば、バーで泥酔して瓶で友達を殴る事件を起こした人に、週末にそのバーでのコップの片づけを命じる、市民としてそのような行為に接することがどのような気持ちになるかを話すなど)。再犯率は下がった。ただし、このChardの仕組みをそのままほかの地域に導入してもうまくいかなかった、Chardから学んでそれぞれの地域でその地域に住む人々と作り上げなければならないのだ。
Merevale House(認知症のある人の住居)、Richmond Fellowship/Retain(精神健康上の困難による影響を受けている人の雇用に関するサービス。「クライエントがしたいと思うことは何でも自身でできる」という考えのもと、支援者はできるだけ「しない」ことが賞賛される。)、Envision

共同創造Co-production 資料19続き1: 共同創造の実践

資料19「Public Services Inside Out: Putting co-production into practice」(2010年4月発行)
https://neweconomics.org/2010/04/public-services-inside
共同創造の実践 の中身を少しご紹介できたらと思います。(ご紹介というよりはメモのような。。。)

Part 1: Building on people’s existing capabilities 人々に既にある力を活かす

サービスを、何か不足しているところへアプローチするという考え方から、人々の力を認識し、その力を発揮できるような機会を提供して、人々やコミュニティがそれらの力を活用できるように支えるというアプローチに変える。

「サービスを利用する側からサービスに還元できることがあるということを、利用者にはっきりと伝えられているとこと」は、うまくいく共同創造の特徴の一つである。

これまでは自分のしてきた経験を活かして、ほかの同じような経験をしている人たちをサポートしたいと思っても、そのような仕組みがなかったし、支援職やサービス提供者からは市民のそのような行動はリスクがあると捉えられるなど、資源というよりは危険として捉えられてきた側面がある。

しかし、何かあるサービスに人々を合わさせるのではなくて、人々が欲しい・したいと思うところからはじめる。サービスありきではなくて関係性。

実践例としてFamily Nurse Partnerships や Learning to Lead、Gloucester Enablement Programme

Part 2: Mutuality and reciprocity 相互性と互恵性

人々が専門職と、あるいはその人たち同士、相互の責任と期待のもと、互恵的に活動できるようさまざまなインセンティブを提供する。

全ての共同創造の活動には、人々とサービス提供者・専門職の間に互恵性の要素がある。その互恵の部分(利益)が金銭だったり、ポイントだったり地域通貨だったりする活動もあるし、そういった金銭的なものではない何かを得ていることもある。

実践例として Scallywags(親運営の保育所。保育士のほか親も交代で保育所の保育に携わる)、Taff Housing(若年女性向け住居:入居者が事業に参加したりするとポイントがもらえ施設内や地域内でそのポイントを使える)、Orange RockCorps(地域のプロジェクトへ貢献すると音楽イベントのチケットに交換できる)

共同創造Co-production 資料19: Public Services Inside Out 共同創造の実践

共同創造資料のご紹介です。
「Public Services Inside Out: Putting co-production into practice」(2010年4月発行)
https://neweconomics.org/2010/04/public-services-inside
邦題をつけるとすれば、「公共サービスをあべこべに:共同創造の実践」とでもいうと良いでしょうか。
(inside outは、あべこべ、とか、裏返し、とか、完全攻略、という意味があるのだろうと思うのですが、これまでは公共サービスの「利用者」だった人も従来の提供者達と共に提供する仲間となる、というような意味で、あべこべ・裏返し・逆の立場、というような意味なのだろうなと感じました)

こちらの資料は、資料08でご紹介したNEFによる「The Challenge of Co-production」←オレンジ色の表紙の資料https://neweconomics.org/2009/12/challenge-co-production (日本語の書籍は「コ・プロダクション:公共サービスへの新たな挑戦」)の続編とも言える資料です。

この資料も、英国のNEF(The New Economics Foundation)とNesta(The National Endowment for Science, Technology and the Arts)という組織のパートナーシップによる資料で、誰でも無料でダウンロードできるようになっています。

この資料は、以下の第1章から第7章まであり、この1~6は大事そうだと思うのでこれから少しずつご紹介できたらと思います。
Part 1: Building on people’s existing capabilities
Part 2: Mutuality and reciprocity
Part 3: Peer support networks
Part 4: Blurring distinctions
Part 5: Facilitating rather than delivering
Part 6: Recognising people as assets
Part 7: Challenges, conclusions and future work

東京大学 コプロダクション研究チーム 宮本有紀

共同創造Co-production 資料18: ウェブサイト involve

共同創造に関連した情報がたくさん掲載されているウェブサイトが無数にあるのですが、そのうちの一つのご紹介です。

https://www.involve.org.uk/

「Involve」という団体は「We’re the UK’s public participation charity, on a mission to put people at the heart of decision-making」とのことで、イギリスのチャリティー組織ということと理解しました。

このウェブサイトのResources の中の Methods というところに、タウンミーティング(Town Meeting)とか、アプリシエィティブ・インクワイアリー(Appreciative Inquiry)とか、デルファイ法による調査(Delphi Survey)とか、意思決定に人々が参加するためのいろいろな方法・やり方の情報がギュッと詰まっていて、そのうちの一つに共同創造(Co-production)もありました。

https://www.involve.org.uk/resources/methods/co-production

ここでは、参加の度合い(Level of Involvement)として inform, consult, involve, collaborate, empower で分類されていて、Co-productionは「Collaborate」でした。

共同創造 Co-production つぶやき 場の安全性

共同創造が行われていくためには、その場にいても安全だ、その場で自分の意見や考えを言っても安全だ、という感覚を参加者が持てる(あるいは、安全とまでは感じないまでも、この場にいたら危険とは思わない)ことは重要だと感じています。

自分の安全以外にも、他者の安全が確保されるのか(他者を傷つけてしまうことはないか)という恐れも共同創造の実践に影響をしそうに感じています。本当に思っていることを言ってしまったら誰かを傷つけてしまうのではないかという恐れや、自分が言ったことで誰かを傷つけてしまったのではないかと思ったら、意見や考えを言うことを控えてしまうことも起こり得ます。

少し話しは変わるのですが、以前、哲学対話について記事(資料15)に書いたのですが、また別の哲学対話についての記事で、多様な意見の尊重をすることを大事にしているので、偏りに基づいた考えも発されることもあり、しかしその意見や考えが誰かに対する暴力ともなり得る、しかし、自由な対話、その自由さや鋭さが、社会を問い直すことにつながるので、『「鋭さ」と「場の安全性」の両立が課題』であるとありました(東洋経済education×ICT education特集 「哲学対話の授業」確かな手応えと悩ましい課題 2021/07/20)。

哲学対話と共同創造とでは文脈は異なるものの、多様な意見を尊重するという理念は共通だと思います。場の安全性を保ちながら意見が出し合われる場としていくことについて、今後も哲学対話や、その他のさまざまな取り組みも参考にしつつ考えていけるとよいのだろうなと感じました。

共同創造において、その場に安全を感じられるようになったり、いろんな試行錯誤を重ね、後悔や反省をしつつも、それでも続けてみようと思うためには、人間としてお互いを知り合う機会や時間があることが後押しになるのかな、と感じています。(宮本のひとりごとでした。)

Co-production 勝手にリカバリーカレッジの応援

共同創造によって学びの場を創り出すリカバリーカレッジが大好きで、勝手に各地のリカバリーカレッジを応援しております。
秋学期のスタートのお知らせをちらほらとお聞きしているので、リカバリーカレッジの講座を受講したい方や知りたい方達に情報が届くようにとここでも公開情報をご紹介させていただきます。
(ご紹介は順不同です。私=宮本が把握したリカバリーカレッジの情報のみ、かつ、公開されている情報のみ、2021/9/3の時点での情報をご紹介しております。受講料の有無はカレッジによって異なるのでご自身でご確認ください。)

リカバリーカレッジ(東京都三鷹市) https://sudachikai.eco.to/pia/course.html こちらのページに、2021年度秋学期講座の講座や申し込みの方法が書いてあるPDFに飛べるリンクがあります。ここにある資料によると、秋学期の受講期間は2021年9月29日~12月22日で、2021年度秋学期は、オンラインと対面の講座があるようです。申し込みは左側に「お申し込み」の欄がありますのでそちらから~

リカバリーカレッジたちかわ (東京都立川市) http://recoverycollege.jp/tachikawa/2021-22autumn/ 秋期講座は2021年9月~11月で、オンラインZOOM開催で、9月4日が始業式とあります! 

リカバリーカレッジふくおか(福岡県福岡市) https://www.rcfukuoka.com/  秋学期は9月下旬~12月のようで、応募期間は2021年8月22日~9月20日とありました!

リカバリーカレッジおおた(東京都大田区) https://www.ota-shakyo.jp/news/05/05/event-20210831161715 は9/14にオンライン講座があります。

COVID-19の感染拡大が落ち着かず、開催について検討継続中のカレッジの話もお聞きしています。早く状況が落ち着くと良いですよね。。

共同創造Co-production 資料17: 精神保健サービスの提供における共同創造 Working Well Together

共同創造(コプロダクション)資料のご紹介です。

National Collaborating Centre for Mental Health. Working Well Together: Evidence and Tools to Enable Co-production in Mental Health Commissioning. London: National Collaborating Centre for Mental Health; 2019.

working well together

精神保健サービスの提供において共同創造を可能にするための根拠やツールが掲載されています。内容の紹介(英語)はこちら↓

https://www.rcpsych.ac.uk/improving-care/nccmh/other-programmes/coproduction

この資料(PDFファイル)への直接リンクはこちら↓です。

https://www.rcpsych.ac.uk/docs/default-source/improving-care/nccmh/working-well-together/working-well-together—evidence-and-tools-to-enable-co-production-in-mental-health-commissioning.pdf?sfvrsn=4e2924c1_2

  • 英国のNHS England (イングランドの国民健康サービス)では、精神保健サービスの提供も共同創造で行うよう提言しているわけですが(詳しくは*を)、この冊子(52ページ)では、精神保健サービスの提供において共同創造に取り組んでいる方々からのフィードバックから困難や障壁を紹介したり、共同創造の実践の現状や共同創造をする際に検討する点などが掲載されています。
  • mental health commissioningというのを精神保健サービスの提供、と訳してしまいましたが、医療や保健福祉サービスの制度が英国と日本とで同じではないので、このあたりのニュアンスを私自身もっと知りたいなと思っています。また、日本の精神保健福祉の中での実践に使えるようなまとめを作ったりしていきたいなと感じました。

    東京大学 コプロダクション研究チーム 宮本有紀

*宮本有紀, 小川亮. コ・プロダクション(共同創造)は英国の精神保健医療福祉施策にどのように位置づけられているか. 精神保健福祉ジャーナル 響き合う街で. 2019(87):11-6.

共同創造Co-production 資料16: 研究における共同創造

日本精神障害者リハビリテーション学会の発行している雑誌「精神障害とリハビリテーション」で、研究における共同創造や患者市民参画に関する特集が組まれました。

精神障害とリハビリテーション Vol.25 No.1 特集 研究における当事者参加 (出版年月日:2021/07/14) https://www.kongoshuppan.co.jp/smp/book/b587839.html

精神障害とリハビリテーション Vol.25 No.1 特集 研究における当事者参加

コプロダクション研究チームの小川亮や宮本有紀もいくつかの記事に参加させていただいております~。

なお、医療やサービスの共同創造も、研究の共同創造も、どちらも、効率重視でやってしまうとせっかくの共同創造が活かせないという思いと、しかしながら進めていくにはどこかで決めて動いていかないとせっかく共同創造で良いものを生み出しているのにそれを周囲に届けられないといった面があるように思っており、どうすると良いのかなぁ、と個人的には思っています。そして、あれもやりたい、これもやりたい、こんな風にしたい、と自分はとても欲張りで、でもどれもちゃんと取り組める時間をかけられていなくて結局どれも中途半端になってしまって、、、という感じになってしまっている自分を感じています。宮本の独り言でした。

共同創造 Co-production 資料15: 哲学対話

共同創造をしていくにあたって、どんな風に対話の場を作れるかということは、とても大きいテーマだと感じています。そんな中、ここ数年(私にとって)耳にする機会が増えた、哲学対話の考え方が、共同創造でしようとしていることと通じている部分が多いように感じています。

NHKの解説アーカイブスに出ている解説「『考える力』を育てる『哲学対話』」(視点・論点) 2020年03月31日 (火) (東京大学 教授 梶谷 真司)がわかりやすかったです!

それによると、哲学対話は、哲学の思想を教えるのではなく、思考力を育てるものであり、「対話」がその主な方法として開発されたとあります。そして哲学対話は輪になって行う、「輪になる」ことには意味があり、円となることで前も後ろもなくお互いに対等で誰でも発言していい場となる、とあります。そして、話し合うテーマは自分たちで決める、人から与えられたのではなく、自分たちで探し、決めた問いだからこそ、自ら考えることができる、とあります。また、対話のルールはその実践者によって異なるが、この解説をしている梶谷真司さんのルール

1.何を言ってもいい
2.人の言うことに対して否定的な態度をとらない。
3.お互いに問いかけるようにする。
4.発言せずただ聞いているだけでもいい。
5.知識ではなく自分の経験にそくして話す。
6.意見が変わってもいい。
7.話がまとまらなくてもいい。
8.わからなくなってもいい。

NHK解説アーカイブス 「『考える力』を育てる『哲学対話』」(視点・論点) 2020年03月31日 (火)  東京大学 教授 梶谷 真司 より引用)

が紹介されていました。

この解説では、”自由に発言し、相互に問いかけることで、互いを尊重し、違いを受け止められるようになります。”、”理解できない相手ですら、考えるきっかけを与えてくれる存在として受け入れられます”ということや、結論を急がないこと、安心して意見を言える人間関係、何でも話せる場を作ることについて書かれています。

研究チームの自由な感想:
それぞれの違いを尊重しつつ、それぞれの意見や考えが出されることが、共同創造では必要なので、この哲学対話の考え方もとても大きなヒントとなりそう。

共同創造 Co-productionつぶやき

医療保健領域での共同創造を考えるにあたって、病や障害、あるいは困難を生きる人たちの知や、その共有のされ方についてと、その人たちと専門職者・支援者との関係のあり方に意識を向けることは不可欠だと思っています。たとえばセルフヘルプグループや当事者会、これまでの医療保健領域での支援するされるの関係、社会の中で患者や障害者がどのような対応をされてきたかについても、共同創造を考える上で重要なテーマだと感じます。

2021年2月にあった東京大学の国語の入試問題で、松嶋健「ケアと共同性――個人主義を超えて」の文章が使われていました。共同創造について扱っているわけではないのですが、自助グループやケアについて述べている文章です。

この文章では、田辺繁治の調査したタイのHIV感染者とエイズを発症した患者による自助グループを例に出して

”医学や疫学の知識とは異なる独自の知や実践を生み出していく”

ことや、そこに

”非感染者も参加するようになり、ケアをするものとされるものという一元的な関係とも家族とも異なったかたちでの、ケアをとおした親密性にもとづく「ケアのコミュニティ」が形作られていった”

といった内容と、糖尿病の外来でのフィールドワークからアネマリ-・モルが

”糖尿病をもつ人びとと医師や看護師の共同実践に見られる論理”

の特徴から取り出した「ケアの倫理」について考察し、

”ケアとは、「ケアをする人」と「ケアをされる人」の二者間での行為なのではなく、家族、関係のある人びと、同じ病気をもつ人、薬、食べ物、道具、機会、場所、環境などのすべてから成る共同的で協働的な作業なのである。”

といったことが書かれていました。

理系・文系のどちらの受験生も真剣に読んで考える入試問題の中にこういった内容が含まれていたことに、なんだかうれしくなったのでした。

なお、松嶋健. ケアと共同性――個人主義を超えて. は、松村恵一郎・中川理・石井美保編「文化人類学の思考法」世界思想社. 2019 に全文があります。