共同創造 Co-production 資料22: コ・プロダクション論と日本の福祉供給体制と市民参加

今回は、小田巻友子氏による論文のご紹介です。

小田巻友子 (2018) コ・プロダクション論から見た日本の福祉供給体制における「市民参加」への懐疑. 松山大学論集.  30(4-1),161-182
https://core.ac.uk/download/pdf/230513064.pdf

1 コ・プロダクション概念の広がり
2 公共的なサービス生産への市民の参加をどのように捉えるか
3 日本における福祉社会の言説の浸透
4 日本の地域包括ケアシステムにみる「市民参加」
5 潜在的なニーズの発掘

というような形で日本語で記載されていて、とても勉強になりました。

財やサービスを生産している諸個人やグループを「レギュラーな生産者(regular producer)」、
レギュラーな生産者と一緒に自らが消費する財やサービスの生産に自発的に寄与しようとする
諸個人やグループを「消費者生産者(consumer producer)」と位置づけ、
その双方が貢献することが可能である生産関係を「コ・プロダクション」とする考え方が紹介されていました。
このように考えると、たとえば精神科ピアサポートスタッフは自身の勤務する場ではレギュラーな生産者なんだな、と、
自分の中で整理できました。

また、小田巻氏は
「消費者生産者とレギュラーな生産者がそれぞれ固有の情報をもっており,互いにその情報が見えにくいという
「情報の不完全性」の解消にこそ,サービス生産過程への消費者生産者投入の意義がある」とし
市民の参加を決定の主体とすることが重要であると述べています。
おこなわれるサービスがコ・プロダクティブな自己決定により選択されるならば、
そのサービスの供給は当事者、専門家、それらの協働のどの形で供給されるのでもこだわる必要はない
と述べていて、とても腑に落ちた気がしました。

(リカバリーカレッジでも、どんな講座を受けたいか、どんな講座があるとよいか、
どんな講座に参加するかが当事者主体で決定されていればその供給は誰からでもよいのかも知れないと思うこともあったので)

小田巻氏の論文に、
「私たちはそれらの市民の参加が単なる担い手としてのレベルにとどまっているのか,
実質的な意思決定過程における市民の参加という観点からもその取り組みが説明できるのか注視する必要がある」と
記載されていて、ここでの「市民」を、保健医療福祉における「患者・利用者」として
全く同じことが言えるだろうなと感じました。

また、小田巻氏の注目しているコ・プロダクション事例として
「2000年から本格実施された18歳以上の精神障害者を対象とした公的サービスであるPersonligt ombud(PO)」
についての紹介もあり、さらに知りたいなと思いました。

じっくり読みたい資料や論文がたくさんあるのになかなか読み進められずにおりますが今後も少しずつ重ねていきたいです。
東京大学 コプロダクション研究チーム 宮本有紀

共同創造Co-production 資料19続き3: 共同創造の実践

資料19「Public Services Inside Out: Putting co-production into practice」(2010年4月発行)
https://neweconomics.org/2010/04/public-services-inside
共同創造の実践 の中身のご紹介の続きです。(前回は資料19続き1 にPart 1とPart2を、資料19続き2 にPart 3とPart 4をご紹介しました)

Part 5: Facilitating rather than delivering  提供するのではなく促進する

共同創造されたサービスであれば、「この人はどのサービスを必要としているだろう?」という問いではなくて「この人はどんな暮らしを送りたいだろう?」「この人にとっての豊かな暮らしとはどんなものと感じているだろう?」という問いからはじまるのではないだろうか。

実践例:
Local Area Co-ordination (LAC) (もとはオーストラリア西部で1988年にはじまったアプローチで今やオーストラリア、スコットランド、カナダ、アイルランド、ニュージーランドなどに広がっている。個人はみんな違い、障害のある人にとっての豊かな暮らしの核となるものは、障害のない人にとっての豊かな暮らしの核となるものと変わらない、という考えに基づいている。LACでは個人や家族、地域の貢献が価値あるものとされ、LACでは個人のネットワークやコミュニティのネットワークの中でそれぞれの技術や資源や強みが提供されるようにサポートしている。LACのサービスは他のサービスよりもコストは低く、また家族がケアを続けやすく、自立度が高まるといった調査結果がある。たとえば重度のサポートが必要な子をもつ親同士をつなげたことにより、それぞれの子供が特別な送迎手段を手配するのではなく、家族が交代しながら自家用車で毎日学校に通うことができるようになった例などを含め、その地域の中で、それらの個人の生活に合わせて、個人と専門職によって共同創造されている。
KeyRing(知的障害のある方のための居住や相談サービス。9名の成人メンバーと1名のボランティアが徒歩15分圏内くらいに住み、ボランティアはメンバーの居住や地域とつながるためのサポートを提供する見返りに無料で住まうことができる。)

Part 6: Recognising people as assets  人々を資産として認識する

人々を、受け身のサービス利用者、あるいはシステムのお荷物として見るのではなく、サービス構築やサービス提供の対等なパートナーとして認識する

実践例:
Paxton Green(時間ベースの通貨timebankingを活用している診療所。自分の得意なことを誰かに教えたり、誰かを車に乗せてあげたり、お話をしたり、など、相互サポートの考え方が根底にある。ここでは患者のことを、どのような健康問題があったとしても、様々な経験、技術、時間、ほかの人とつながる人間力のある人として見る。多くの医師は、薬よりも、週に一度の友好的な時間の方がその患者に効くのではないかと思うことも多いものだが、タイムバンクを活用することで、そのような社会的処方をすることができ、相互的な解決が得られる。そして、医師による患者に対する見方も変わった。)
Elderplan Member to Member Scheme, Brooklyn US(健康保険企業によって運営される。メンバーがほかのメンバーの世話をすることでタイムドルを得て、自分が必要な時にはまたほかの誰かからサポートを受けられる。誰かのサポートをするメンバーにとっても、朝ベッドから出る理由となり、健康への効果があった。)

Co-housing at the Threshold Centre(共同住居)

Fureai Kippu, Japan 日本の「ふれあい切符」も紹介されていました!

Part 7: Challenges, conclusions and future work 結論と今後の課題

どの実践も、成功している部分と、課題の両方がある。

サービスの「提供」ではなく、サービスの共同創造(Co-production)を主流としていくための課題としては
1.Funding and commisioning co-production activity 共同創造にお金をつけて、共同創造活動が行われるような方針が必要。共同創造は幅広く多重な活動であるため、効率性や特定の目的・効果を重視してしまうコミッショナー(理事や役員?)からすると、共同創造はなんだかまとまりのないものに見えてしまう。(たとえば地方政府がサービスを地域の事業所などに発注するにあたっては)コストの安さだけで選ぶのではなく、サービスの共同創造が行われているかも質問に入れるなど。
2.Generating evidence of value for people, professionals, funders and auditors 住民や専門職、自治体などにとっての価値を数値でも伝えられるようにエビデンスを蓄積していく。
3.Taking successful co-production approaches to scale ある地域で行われているものはほかのところでも再現可能なのだろうか。共同創造は小さな組織に合うもので、顔の見える関係の中で成功していく。これらを拡大していくにあたっては、ヒエラルキーのあるような、あるいは中央集権的なものから離れなければならない。各地域に広げたとしても、その地域地域での規模は小さくする。ほかの地域をそのままコピーして導入するというのは失敗につながる。
4.Developing the professional skills required to mainstream co-production approaches 共同創造を実践する人にはどのようなスキルが必要だろうか?人々のもっている力を資源として見るスキル、人々が自分自身で発展していくためのスペースを作るスキル、人々に対して何かをするのではなく共に活動するスキルが必要である。ケアする文化から、可能性を広げる文化への変換。その地域についての知識や、その知識を持っている人とつながる能力が必要。

この資料が、12年前に発行されていたんだなぁ、と思うと、すごいなぁと思いますし、その後さらに共同創造実践は英国でどんどん発展しているのだろうと思いました。
なお、英国の資料を読むときに、日本とは医療や福祉の制度が異なるので、ピンとこないところも多々あります。たとえばコミッション、コミッショナーというのがよく出てきて、おそらくイメージとしては、国とか自治体とかがたとえば地域住民の健康を守る事業を事業者にこんなことをしてくださいって条件を提示して、入札した事業者の中から発注先を選んで委託する、って感じなのかなぁ、と思っています(詳しい方、教えてください)。そして、たとえば福祉の場合、ケアの質がしっかりしていいて価格の安いところへ発注していたのを、今後は共同創造のなされ度合いなども、その条件として問うてはどうか、というのがPart 7の1で述べていることなのかなぁと思いましたがどうなのでしょう。それに加えて、英国の制度やシステムの在り方もどんどんと変わっていく印象があって、なかなか意味を読みこなせないところも。。
東京大学 コプロダクション研究チーム 宮本有紀

共同創造Co-production 資料19続き2: 共同創造の実践

資料19「Public Services Inside Out: Putting co-production into practice」(2010年4月発行)
https://neweconomics.org/2010/04/public-services-inside
共同創造の実践 の中身のご紹介の続きです。(前回は資料19続き1 にPart 1とPart2をご紹介しました)

Part 3: Peer support networks ピアサポートのネットワーク

専門職だけでなく、ピア(仲間、類似の経験を持つ人々)のネットワークや、それぞれの人のネットワークを活用することが、知識を得たり変化が起きたりすることを支えることの最善の方法である

実践例として Headway East London(脳外傷を受けた人々のデイセンター。自ら脳外傷を受け、リハビリや職場復帰をしようとした経験のある方たちがスタッフとして雇用されている。また、メンバーもセンターの業務に関わっている。また専門職との関係とは別に、ピアサポートのつながりを築いている。)、Multiple Sclerosis (MS)Socieity、User voice(再犯を防ぐことができるのは犯罪者だけだ。刑務所プログラムをより効果的なものとし、犯罪者の声をその更生に活かすために共同創造を中心に据え、過去に犯罪を犯したことのある人が、現在刑務所に入っている方たちと一対一のピアメンタリングを行ったりしている)

Part 4: Blurring distinctions  区別をなくすこと

サービスの構築や提供を構成しなおすことで、専門職と利用者の区別、提供者と消費者の区別をなくす

実践例
Chard Community Justice Panel:Chardという地域で、遠くの裁判所ではなく、地域で裁判をできるように、地域住民と裁判のプロセスを作り、司法の警察だけでなく、地域住民によって構成される司法委員会が、反社会的行動をした人の話を聞いたり意見を述べたり、Acceptable Behaviour Contract (許容行動契約?好ましい行動をするよう命じる)を述べる取り組みをした(たとえば、バーで泥酔して瓶で友達を殴る事件を起こした人に、週末にそのバーでのコップの片づけを命じる、市民としてそのような行為に接することがどのような気持ちになるかを話すなど)。再犯率は下がった。ただし、このChardの仕組みをそのままほかの地域に導入してもうまくいかなかった、Chardから学んでそれぞれの地域でその地域に住む人々と作り上げなければならないのだ。
Merevale House(認知症のある人の住居)、Richmond Fellowship/Retain(精神健康上の困難による影響を受けている人の雇用に関するサービス。「クライエントがしたいと思うことは何でも自身でできる」という考えのもと、支援者はできるだけ「しない」ことが賞賛される。)、Envision

共同創造Co-production 資料19続き1: 共同創造の実践

資料19「Public Services Inside Out: Putting co-production into practice」(2010年4月発行)
https://neweconomics.org/2010/04/public-services-inside
共同創造の実践 の中身を少しご紹介できたらと思います。(ご紹介というよりはメモのような。。。)

Part 1: Building on people’s existing capabilities 人々に既にある力を活かす

サービスを、何か不足しているところへアプローチするという考え方から、人々の力を認識し、その力を発揮できるような機会を提供して、人々やコミュニティがそれらの力を活用できるように支えるというアプローチに変える。

「サービスを利用する側からサービスに還元できることがあるということを、利用者にはっきりと伝えられているとこと」は、うまくいく共同創造の特徴の一つである。

これまでは自分のしてきた経験を活かして、ほかの同じような経験をしている人たちをサポートしたいと思っても、そのような仕組みがなかったし、支援職やサービス提供者からは市民のそのような行動はリスクがあると捉えられるなど、資源というよりは危険として捉えられてきた側面がある。

しかし、何かあるサービスに人々を合わさせるのではなくて、人々が欲しい・したいと思うところからはじめる。サービスありきではなくて関係性。

実践例としてFamily Nurse Partnerships や Learning to Lead、Gloucester Enablement Programme

Part 2: Mutuality and reciprocity 相互性と互恵性

人々が専門職と、あるいはその人たち同士、相互の責任と期待のもと、互恵的に活動できるようさまざまなインセンティブを提供する。

全ての共同創造の活動には、人々とサービス提供者・専門職の間に互恵性の要素がある。その互恵の部分(利益)が金銭だったり、ポイントだったり地域通貨だったりする活動もあるし、そういった金銭的なものではない何かを得ていることもある。

実践例として Scallywags(親運営の保育所。保育士のほか親も交代で保育所の保育に携わる)、Taff Housing(若年女性向け住居:入居者が事業に参加したりするとポイントがもらえ施設内や地域内でそのポイントを使える)、Orange RockCorps(地域のプロジェクトへ貢献すると音楽イベントのチケットに交換できる)

共同創造Co-production 資料19: Public Services Inside Out 共同創造の実践

共同創造資料のご紹介です。
「Public Services Inside Out: Putting co-production into practice」(2010年4月発行)
https://neweconomics.org/2010/04/public-services-inside
邦題をつけるとすれば、「公共サービスをあべこべに:共同創造の実践」とでもいうと良いでしょうか。
(inside outは、あべこべ、とか、裏返し、とか、完全攻略、という意味があるのだろうと思うのですが、これまでは公共サービスの「利用者」だった人も従来の提供者達と共に提供する仲間となる、というような意味で、あべこべ・裏返し・逆の立場、というような意味なのだろうなと感じました)

こちらの資料は、資料08でご紹介したNEFによる「The Challenge of Co-production」←オレンジ色の表紙の資料https://neweconomics.org/2009/12/challenge-co-production (日本語の書籍は「コ・プロダクション:公共サービスへの新たな挑戦」)の続編とも言える資料です。

この資料も、英国のNEF(The New Economics Foundation)とNesta(The National Endowment for Science, Technology and the Arts)という組織のパートナーシップによる資料で、誰でも無料でダウンロードできるようになっています。

この資料は、以下の第1章から第7章まであり、この1~6は大事そうだと思うのでこれから少しずつご紹介できたらと思います。
Part 1: Building on people’s existing capabilities
Part 2: Mutuality and reciprocity
Part 3: Peer support networks
Part 4: Blurring distinctions
Part 5: Facilitating rather than delivering
Part 6: Recognising people as assets
Part 7: Challenges, conclusions and future work

東京大学 コプロダクション研究チーム 宮本有紀

共同創造Co-production 資料17: 精神保健サービスの提供における共同創造 Working Well Together

共同創造(コプロダクション)資料のご紹介です。

National Collaborating Centre for Mental Health. Working Well Together: Evidence and Tools to Enable Co-production in Mental Health Commissioning. London: National Collaborating Centre for Mental Health; 2019.

working well together

精神保健サービスの提供において共同創造を可能にするための根拠やツールが掲載されています。内容の紹介(英語)はこちら↓

https://www.rcpsych.ac.uk/improving-care/nccmh/other-programmes/coproduction

この資料(PDFファイル)への直接リンクはこちら↓です。

https://www.rcpsych.ac.uk/docs/default-source/improving-care/nccmh/working-well-together/working-well-together—evidence-and-tools-to-enable-co-production-in-mental-health-commissioning.pdf?sfvrsn=4e2924c1_2

  • 英国のNHS England (イングランドの国民健康サービス)では、精神保健サービスの提供も共同創造で行うよう提言しているわけですが(詳しくは*を)、この冊子(52ページ)では、精神保健サービスの提供において共同創造に取り組んでいる方々からのフィードバックから困難や障壁を紹介したり、共同創造の実践の現状や共同創造をする際に検討する点などが掲載されています。
  • mental health commissioningというのを精神保健サービスの提供、と訳してしまいましたが、医療や保健福祉サービスの制度が英国と日本とで同じではないので、このあたりのニュアンスを私自身もっと知りたいなと思っています。また、日本の精神保健福祉の中での実践に使えるようなまとめを作ったりしていきたいなと感じました。

    東京大学 コプロダクション研究チーム 宮本有紀

*宮本有紀, 小川亮. コ・プロダクション(共同創造)は英国の精神保健医療福祉施策にどのように位置づけられているか. 精神保健福祉ジャーナル 響き合う街で. 2019(87):11-6.

共同創造Co-production 資料16: 研究における共同創造

日本精神障害者リハビリテーション学会の発行している雑誌「精神障害とリハビリテーション」で、研究における共同創造や患者市民参画に関する特集が組まれました。

精神障害とリハビリテーション Vol.25 No.1 特集 研究における当事者参加 (出版年月日:2021/07/14) https://www.kongoshuppan.co.jp/smp/book/b587839.html

精神障害とリハビリテーション Vol.25 No.1 特集 研究における当事者参加

コプロダクション研究チームの小川亮や宮本有紀もいくつかの記事に参加させていただいております~。

なお、医療やサービスの共同創造も、研究の共同創造も、どちらも、効率重視でやってしまうとせっかくの共同創造が活かせないという思いと、しかしながら進めていくにはどこかで決めて動いていかないとせっかく共同創造で良いものを生み出しているのにそれを周囲に届けられないといった面があるように思っており、どうすると良いのかなぁ、と個人的には思っています。そして、あれもやりたい、これもやりたい、こんな風にしたい、と自分はとても欲張りで、でもどれもちゃんと取り組める時間をかけられていなくて結局どれも中途半端になってしまって、、、という感じになってしまっている自分を感じています。宮本の独り言でした。

共同創造 Co-production 資料14: BMJ記事

BMJという学術誌があるのですが、そこで、研究の共同創造についての特集がありました。https://www.bmj.com/co-producing-knowledge
研究の雑誌なので、主に研究での共同創造に関する記事です。

そのEditorial(論説とでもいうのでしょうか)の記事↓
Co-production of knowledge: the future. BMJ 2021;372:n434  doi: https://doi.org/10.1136/bmj.n434 (Published 16 February 2021)
で、「共同創造は、研究の質と妥当性を高め、その影響は政策や実践にも及ぶ。」と記載されています。
主に研究に関連する共同創造についてのべられている記事ではありますが、ここでいくつかあげられているものを意訳してご紹介します。

1.共同創造は状況依存的であり、状況や場、文化、国によって、何がうまくいくかは異なる。
2.そこに参加している異なる専門性(や知恵)を持っている人達に対する信頼と、力(パワー)の共有、敬意が共同創造には必要である。
3.共同創造をするにあたって必要となることに対する関心が高まっている。
4.共同創造による研究を行っていくには、これまでとは異なる研究費の助成の仕方などが必要であろう。

この、3の、共同創造にあたって必要となることについて、私たちも関心があるわけですが、いろいろな人達も関心があるんだなということを改めて感じたのでした。
東京大学 コプロダクション研究チーム 宮本有紀

共同創造 Co-production 資料11: SCIE「社会福祉領域でのコプロダクション:コプロダクションとは何か、どのようにするか」平易版

共同創造(コプロダクション)資料のご紹介です。

資料に平易版(Easy Read)があるときは、それが一番私にとってはわかりやすく、とても気に入っている資料の一つとして、
Social Care Institute for Excellence (SCIE) による
「社会福祉領域でのコプロダクション:コプロダクションとは何か、どのようにするか」平易版Co-production in social care: What it isand how to do it (Easy read summary)
(アクセス:2020年12月5日)
をご紹介します。

共同創造(コプロダクション)についての説明をいくつか抜き出します:
共同創造(コプロダクション)とは、サービス提供者側とサービスを利用する人やその介護者がともに取り組むことを意味します。(p.1)

共同創造(コプロダクション)の基本の意味は、何かをするために共に取り組む、ということです。異なる視点や考えをもった人たちが、誰にとっても良いものとなるよう集まってとりくむことです。(p.3)

共同創造(コプロダクション)は、サービスを利用する人、介護者、そしてサービスを運用する人たちが対等な立場で集まります。対等とは、他の人よりも大事な人というのがいるわけではない(誰もが同じように大事な人である)ことを意味します。(p.4)

共同創造(コプロダクション)で大切なこと

  • サービス利用者、介護者、サービス提供者が皆で同じことのために一緒に取り組む
  • サービス利用者と介護者がもつ力(パワー)と統制権(コントロール)が増す
  • サービス利用者と介護者は、サービス側のすること全ての一員となる
  • サービス利用者と介護者は、その知識とそのできることがある、価値ある存在であることをサービス側は理解する
  • サービス側のためにしたことに対して何かを得る-謝礼を支払われたり、何かを無料でできたり、新しいことを学んだり
  • サービスがどのように行われるかについて、管理者よりも、サービス利用者や介護者と接して働くスタッフの発言力が増す

共同創造(コプロダクション)の原則

  1. 対等性(Equality)
    誰もが持ち寄るものがあり、誰かだけがとりわけ大切ということはない(皆が同じように大切)
  2. 多様性(Diversity)
    コプロダクションにおいて皆が参加できているように
  3. アクセス(Access)
    コプロダクションへの参加が、誰かにとっては難しいようなことはあってはならない
  4. 相互性(Reciprocity)
    コプロダクションに取り組むことにより皆がそれぞれ何かを得る。お金のこともあれば何かを無料でできるとか。友達ができる、誰かの役に立つことで気持ちが良いなども

などが大きな字で、絵と共に記されていました。

平易な言葉にすることで、表現しきれないことも出てきてしまうのだろうとは思いますが、より多くの人がその意味をつかむことができる、アクセスできるということはとても重要なことだと思いました。

東京大学 コプロダクション研究チーム 宮本有紀
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共同創造 Co-production 資料10: 市民と行政との協働【2】(NPOと協働する行政職員の8つの姿勢、行政と協働するNPOの8つの姿勢)

(※「市民と行政との協働【1】」から続きます。)
今回は、前回に引き続き、「市民と行政との協働」に関する資料をご紹介いたします。

前回お示しした東京都東村山市の協働マニュアルには、「協働の原則」以外にも、大切な考え方として「NPOと協働する行政職員の8つの姿勢」(NPO活動推進自治体ネットワーク 協働を進めるための行政職員の意識改革研究会編)が引用されておりました。

その内容は…

  1. 公共は「官」だけが担うのではなく、NPOや企業などさまざまな主体と共に担う意識を持つこと
  2. 協働とは特別なことではなく、チャレンジであり、失敗を恐れない意識を持つこと
  3.  ニーズは、現場に足を運び、当事者の生の声に耳を傾けてこそわかるという意識を持つこと
  4. 協働相手とは対等である。本音で語り合えてこそ、協働であるという意識を持つこと
  5. 協働の現場では、自らの責務として率先して行政内部で連携し相乗効果を得ること
  6. 協働には十分なコミュニケーションが必要であり、共感するには時間がかかるという意識を持つこと
  7. 情報は市民のものであり、市民のために活用してこそ価値がある
  8. 協働できない理由を探すのではなく、受益者のためにどうしたら実現できるのかを考えること
    …といったものとなっています。

上記の「NPOと協働する行政職員の8つの姿勢」の内容は、日本NPOセンターのwebサイトhttps://www.jnpoc.ne.jp/?page_id=10158にも記載されており、このページには、「行政と協働するNPOの8つの姿勢」(民間NPO支援センター・将来を展望する会 編)に関しても記されています。
また、後者については、https://www.jnpoc.ne.jp/?page_id=457にさらに詳しい説明が述べられています。

その「行政と協働するNPOの8つの姿勢」は…

  1. 市民の共感と参加を基本とする事業づくりの能力を持ち、それを通じて本当の市民自治を促進すること
  2. ミッションと協働事業の整合性を考え、事業を展開すること
  3. 行政に依存せず、精神的に独立していること
  4. 相互のシステムの違いを理解しつつ、解決の糸口を見出していく姿勢を持って努力すること
  5. NPOならではの関与によって協働事業の質を向上できるような専門性・特性をもつこと
  6. ルールの違いを乗り越えるための能力を備えておくこと
  7. 協働した結果は、市民の共有財産として広く積極的に知らせていくこと
  8. 契約にあたって、対等な立場で交渉する力をつけること
    …といった内容となっています。

これらの「8つの姿勢」も、「市民/NPO」を「当事者」に、「行政/官」を「専門職」になぞらえてみると、「保健医療領域における当事者と専門職の共同創造」に向けて多くの示唆を与えてくれる資料ではないかという思いから、ご紹介してみました。

東京大学 コプロダクション研究チーム 小川亮
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研究チームの印象に残ったこと・自由な感想:
単語を変えればそのままさまざまな領域で当てはまる感じ。
日本NPOセンターのNPOと共同する行政職員の8つの姿勢、行政と共同するNPOの8つの姿勢は、様々な地域・組織の沢山の人が参加して作られている。
日本語で作られているため読んでいてわかりやすくてよい。
コプロダクションへのヒントはほかの領域にもたくさんあるので、そういったところにもアンテナを広げていきたい。
コプロダクションとか共同創造以外の他の言葉(たとえばcollaboration, engagementなどいろいろ)を使っているところもたくさんあるのでもっと知りたい。