共同創造Co-production資料42: 大学での精神保健研究の患者市民参画

今回も、研究の共同創造に関連する資料のご紹介です。

論文情報:

Evans J, Da Cunha Lewin C, Fabian H, et al. Facilitators of and barriers to patient and public involvement in mental health research within university settings: a systematic review and meta-synthesis. Psychological Medicine. 2025;55:e297. https://doi.org/10.1017/S0033291725101748

題名は、
Facilitators of and barriers to patient and public involvement in mental health research within university settings: a systematic review and meta-synthesis
(大学における精神保健研究への患者・市民参加の促進要因と障壁:系統的レビューとメタ統合)
です。

研究領域で、患者・市民参画(Patient and Public Involvement: PPI)が重視されるようになってきています。
(このPPIと共同創造は、完全に同じというわけではありませんが、その根底にある価値観は重なっていると思っております。)

この研究では、研究データベースを検索して文献を収集し、最終的には51件の論文から精神保健領域での患者市民参画に関する障壁と促進要因をまとめました。また、この研究には、精神疾患の当事者経験をもつ研究者達が参加していると記載されています。

研究を構築するにあたっての手続き的な面では、PPIのための資金や人材が限られていたり、競争的環境、時間的制約などが障壁として挙げられ、PPIを促進するのに役立つ仕組みとしては、申請にPPIを入れ込むことが挙げられていました。

また、研究の過程での力の不均衡、たとえば研究者が研究プロセスを握っていることも障壁として挙げられていました。また、参加している人たちの多様性が欠如しており、社会から疎外されている人種や識字に困難のある人々がしばしば排除されることについての懸念が挙げられていました。

PPIに価値を置かない組織文化も大きな障壁とされており、研究者がPPIを新しい仕事の方法としてとらえ、当事者経験の価値についてのトレーニングも必要なのではないか、と記されています。

人間関係の構築、オープンで誠実で定期的なコミュニケーションはPPIを促進する要因とされていました。

参加者は、研究や学術的な環境に慣れていないことからくる自信のなさを体験することも多く、参加者が尊重され、意見を言ってみようと思えるような、強力的な環境、安全な空間の重要性も挙げられていました。

今後の研究への市民参画に関する示唆として、権力の再分配(the redistribution of power)、能力開発(building capacity)、安全な取り組み環境(safe working environments)が挙げられていました。

能力開発に関しては、当事者に研究に関するトレーニングを提供することに重点が置かれているが、研究者の能力開発にはあまり焦点があげられていなかったことも、この研究の発見として記載されています。

 

この論文を読みながら、発言しても大丈夫と思えるチーム、安全と感じられるような配慮を互いに行えるチームは、患者・市民だけでなく、研究者にとっても重要であると感じました。また、患者や市民に研究のスキルを研修することに重点が置かれがちで、研究者が生活体験に関する価値を学ぶトレーニングを積むことなどはあまりなされていないということにも思い当たるところが多々ありました。
東京大学コプロダクション研究チーム 宮本有紀

共同創造Co-production資料41: メンタルヘルス科学の第三の柱

研究の共同創造(Co-production)に関する論文がたくさん出版されるようになっており、研究を共同創造でやっていこうという流れが大きくなっているのを感じます。

今回も、研究の共同創造に関連する資料のご紹介です。

論文情報:

Downs J. Beyond the methodological binary: coproduction as the third pillar of mental health science. BMJ Mental Health. 2025;28:e301807. https://doi.org/10.1136/bmjment-2025-301807

題名は、
Beyond the methodological binary: coproduction as the third pillar of mental health science
(方法論の二元論を超えて:メンタルヘルス科学の第三の柱としての共同創造)
です。

この論文では、コプロダクションは理論的理想ではなく、臨床的にも倫理的にも必要なものであるとして、メンタルヘルス領域の研究を質的研究、量的研究といった方法論の二元論を超え、本質的な探究の柱としてコプロダクションを提案しています。

この論文は、conceptual review(概念レビュー)というものを行っていて、文献(研究論文)を検索してヒットしたいろいろな研究や自信の経験から整理して、意味を深く考えながら検証する概念分析という方法でまとめています。

この論文に記載されていることの全てをここで紹介することはしませんが、たとえば、コプロダクションの必要性の項では、人種差別のあるコミュニティ、LGBTQ+の人々、複雑なトラウマの歴史を持つ人々など、社会から疎外されたグループや排除されがちな人々の声を中心に据えた研究などの例が挙げられていました。

また、コプロダクションの倫理的課題として、見かけだけの参加(Tokenism)、感情労働(Emotional labour)、力の不均衡(Power imbalances)、選出や代表性(Selection and representation)、構造的な障壁(Structural barriers)が挙げられていました。

 

ここ数年で研究をコプロダクションで!という論文がたくさん出ていて、読むことすら追いつかない感じです。さまざまなところからこのような声が出て、コプロダクションが当たり前になっていくのだろうな、と思っています。
東京大学コプロダクション研究チーム 宮本有紀

 

共同創造Co-production資料39: 精神科領域の共同創造に関するレビュー論文

共同創造に関する論文の紹介です。

コ・プロダクション(共同創造)に関する実践や実践に関する研究が広がっています。今回ご紹介するのは、精神保健サービス(精神科医療や福祉)における共同創造の考え方についてのレビュー(文献検討論文)です。

論文情報:

Norton MJ. Co-production and mental health service provision: a scoping review. Irish Journal of Psychological Medicine. Published online 2025:1-14. doi:10.1017/ipm.2025.16
https://doi.org/10.1017/ipm.2025.16

題名は、
Co-production and mental health service provision: a scoping review.
(共同創造と精神保健サービスの提供:スコーピング・レビュー)
です。

共同創造に関する論文は多数発表されていますが、この文献研究では、精神保健領域でのリカバリーの考え方と共同創造の原則について文献検討をすることを目的とし、著者の設定した基準により、10本の論文を文献検討の対象論文としています。

共同創造の定義:この10件の研究のうち、共同創造という用語の定義を提示していた8件の研究で、「すべての利害関係者が共通の目標に向かって協力する」、「権力の再分配」、「プロセスに関与する利害関係者が多分野からであること」などが共同創造の定義として述べられていました。

共同創造の利点:困難の経験について話し合うための場ができる、少数派の声を聴くことができるなどは複数の研究で述べられていた。ほかには、それぞれ研究により述べられる利点が異なっていました。

共同創造のデメリット:デメリットを述べた研究では、組織文化がまずあげられていました。時間不足やリソース不足なども個々に含まれる。また、共同創造を行う力の不足も挙げられていました。

この文献検討対象となった研究の中には、急性期入院医療で共同創造を実践することでリスクが軽減されるという示唆があったことは新しいと述べられていました。

考察では、共同創造の考え方が抽象的であり、より理論的な研究が必要であることや、解釈主義的でまだ測定不可能な概念であるのに対し、実証主義的な概念(エビデンスに基づく実践など)との葛藤についても触れられています。

共同創造にとても関心があり、リカバリーカレッジ実践にも参加させていただいています。しかし、共同創造の定義とは、とか、共同創造の目的とか、「真の共同創造」なのかどうなのか、とかなると、はっきりと明言出来ない自分がいます。このレビューを読んでもやっぱりよくわからない、という気持ちになり、結局やっぱり共同創造の定義等は難しいのだな、とあらためて思いました。
東京大学コプロダクション研究チーム 宮本有紀

リカバリーカレッジ資料 11: リカバリーカレッジ実践に関する日英の異文化比較

リカバリーカレッジに関する文献のご紹介です。

リカバリーカレッジに関する研究の一部を、少しずつでもご紹介できればと思っていて前回前々回と28カ国の調査についてご紹介しました。

今回は、前回と同じ小寺 康博(Yasuhiro Kotera)さんが筆頭著者のリカバリーカレッジと文化に関する研究論文です。

論文情報:

Kotera Y, Miyamoto Y, Vilar-Lluch S, Aizawa I, Reilly O, Miwa A, Murakami M, Stergiopoulos V, Kroon H, Giles K, Garner K, Ronaldson A, McPhilbin M, Jebara T, Takhi S, Repper J, Meddings S, Jepps J, Simpson AJ, Kellermann V, Arakawa N, Henderson C, Slade M, Eguchi S.
Cross-cultural Comparison of Recovery College Implementation Between Japan and England: Corpus-based Discourse Analysis.
International Journal of Mental Health and Addiction. 2024. doi: 10.1007/s11469-024-01356-3
https://link.springer.com/article/10.1007/s11469-024-01356-3

題名は
Cross-cultural Comparison of Recovery College Implementation Between Japan and England: Corpus-based Discourse Analysis.
(リカバリー・カレッジ実践に関する日英の異文化比較: コーパスに基づく談話分析)
です。

(コーパスというのは、元は言語学の用語のようで、言葉の使い方などを大規模に集めたもののようです。現在はデジタル化されて提供されているようです。)

前回紹介した研究で、リカバリーカレッジのあり方ははその国の文化によって異なりそうだということがわかりました。このため、この研究では、特に対照的な文化的特徴を持つイギリス(個人主義的、短期志向的)と日本(集団主義的、長期志向的)で、リカバリーカレッジがどのように表現・広報されているのかを調査しています。

この研究は、イギリスと日本で公開されているリカバリーカレッジのウェブサイトから、それらカレッジのチラシやカレッジの講座の案内などからそこで用いられている用語を収集し、談話分析が行われました。

具体的には、どのような用語が使われているか、頻度高く用いられている言葉とその文脈を調べました。

その結果、両国とも、精神疾患の当事者経験を強調していました。また、日本では、リカバリーの関係性や長期的な側面に焦点があてられ、イギリスではパーソナルな(個人的な)学びとスキルの修得に焦点が当てられていました。

この研究では、日本語の用語を英訳して分析に用いているので、言語翻訳の過程でニュアンスなどが異なってしまう可能性ごああるという限界があるかと思います(そのほかの限界点も論文内に記載してあります)。しかし、リカバリーカレッジをどのように広報されるかというのは、リカバリーカレッジを運用している人たちが自分たちのリカバリーカレッジをどのように思っているか、届けたい対象にどこを伝えたいかが含まれていると考えられるため、公開資料の分析というのは、インタビューとはまた違っておもしろいアプローチであると感じています。
東京大学コプロダクション研究チーム 宮本有紀

 

リカバリーカレッジ資料 10: それぞれの国の文化特性とリカバリーカレッジの運営:28カ国の調査

リカバリーカレッジに関する文献のご紹介です。

リカバリーカレッジに関する研究の一部を、少しずつでもご紹介できればと思っていて前回、28カ国の調査についてご紹介しました。

今回も同じ28カ国調査からの研究論文です。

論文情報:

Kotera Y, Ronaldson A, Hayes D, Hunter-Brown H, McPhilbin M, Dunnett D, Jebara T, Takhi S, Masuda T, Camacho E, Bakolis I, Repper J, Meddings S, Stergiopoulos V, Brophy L, De Ruysscher C, Okoliyski M, Kubinová P, Eplov L, Toernes C, Narusson D, Tinland A, Puschner B, Hiltensperger R, Lucchi F, Miyamoto Y, Castelein S, Borg M, Klevan T, Tan Boon Meng R, Sornchai C, Tiengtom K, Farkas M, Moreland Jones H, Moore E, Butler A, Mpango R, Tse S, Kondor Z, Ryan M, Zuaboni G, Elton D, Grant-Rowles J, McNaughton R, Hanlon C, Harcla C, Vanderplasschen W, Arbour S, Silverstone D, Bejerholm U, Powell C, Ochoa S, Garcia-Franco M, Tolonen J, Yeo C, Charles A, Henderson C, Slade M.
28-country global study on associations between cultural characteristics and Recovery College fidelity.
npj Mental Health Research. 2024;3(1):46. doi: 10.1038/s44184-024-00092-9
https://www.nature.com/articles/s44184-024-00092-9

前回紹介した論文同様、著者が非常に多いため書誌情報が長くなっていますが、題名のみを抜き出すと:
28-country global study on associations between cultural characteristics and Recovery College fidelity.
(文化的特徴とリカバリー・カレッジのフィデリティ(忠実性)の関連性に関する28カ国のグローバル研究)
です。

この研究の背景には、リカバリーカレッジは、Western, educated, industrialised, rich, and democratic (WEIRD) countries(欧米、高学歴、先進国、富裕、民主主義の諸国)では有効であることがわかっているものの、それらの国以外では文化の違いなどがあり、リカバリーカレッジの運営への考え方にも違いがあるのではないか、という疑問がありました。

そこでこの研究では、Hofstede(ホフステード)の文化的次元理論を用いて、6つの文化的特性(「権力距離(権力格差) Power Distance」、「個人主義 Individualism」、「達成・成功への動機付け Success-Drivenness」、「不確実性の回避 Uncertainty Avoidance」、「長期志向 Long-Term Orientation」、「耽溺(人生の楽しみ方) Indulgence」)とリカバリーカレッジの運用のフィデリティ(忠実性)との関連を見ています。

この研究も、前回紹介したHayesら(2023) の研究と同じデータセット(リカバリーカレッジが存在するすべての国(28カ国)のリカバリーカレッジに対して行われた調査)が使われています。
(なお、方法を読むと、リカバリーカレッジがあるかもしれない国としてまずは49カ国があがったが、事情通やその国の関係者に聞き、30カ国に211リカバリーカレッジがありそうだとわかったものの、調査をしてみたところ、そのうち2カ国のカレッジはこの調査の包含基準に合わなかったため除外をされたそうです)

各リカバリーカレッジの所在国の文化的特性は、Hofstedeによる、111カ国の国それぞれの文化的特性の点数を用いて解析に用いています。

結果として、「個人主義」と「耽溺主義」のレベルが高く、「不確実性回避」のレベルが低いほど、リカバリーカレッジ原則へのフィデリティ(忠実性)が高いことがわかりました。個人とその近親者のニーズを優先し(個人主義)、人生を楽しむために人間の基本的な欲求を比較的自由に満たすことを受け入れ(放縦・耽溺)、未知の状況を受け入れる(不確実性回避が低い、すなわち不確実性の受容)文化は、リカバリーカレッジの原則への忠実性が高い傾向がありました。

リカバリーカレッジの原則とされているものはWEIRD諸国の文化に沿ったものであり、リカバリーカレッジが世界でその効果を発揮していくためには、リカバリーカレッジの原則とするものにほかの文化の視点を取り入れる必要があるのではないか、と提言されています。

確かに、リカバリーカレッジもそうですが、リカバリーの考え方、学ぶことへの考え方などに、英国と日本では違いがありそうだなと感じることは多々ありました。この論文の筆頭著者は小寺康博さんというのノッティンガム大の研究者で、メンタルヘルスや文化に関して、精力的に研究をされていらっしゃる素敵な研究者です。
東京大学コプロダクション研究チーム 宮本有紀

リカバリーカレッジ資料 09: リカバリーカレッジ研究:28カ国の調査

リカバリーカレッジに関する文献のご紹介です。

このところ、リカバリーカレッジが世界各国で立ち上がるようになってきており、それらについて英国の研究チームを中心とした調査研究が行われ、発表されるようになってきました。

そのような研究の一部を、少しずつでもご紹介できればと思っています。

論文情報:

Hayes D, Hunter-Brown H, Camacho E, McPhilbin M, Elliott RA, Ronaldson A, Bakolis I, Repper J, Meddings S, Stergiopoulos V, Brophy L, Miyamoto Y, Castelein S, Klevan TG, Elton D, Grant-Rowles J, Kotera Y, Henderson C, Slade M, De Ruysscher C, Okoliyski M, Kubinová P, Eplov LF, Toernes C, Narusson D, Tinland A, Puschner B, Hiltensperger R, Lucchi F, Borg M, Tan RBM, Sornchai C, Tiengtom K, Farkas M, Morland-Jones H, Butler A, Mpango R, Tse S, Kondor Z, Ryan M, Zuaboni G, Hanlon C, Harcla C, Vanderplasschen W, Arbour S, Silverstone D, Bejerholm U, Powell CL, Ochoa S, Garcia-Franco M, Tolonen J, Dunnett D, Yeo C, Stepanian K, Jebara T.
Organisational and student characteristics, fidelity, funding models, and unit costs of recovery colleges in 28 countries: a cross-sectional survey.
The Lancet Psychiatry. 2023;10(10):768-79.
https://doi.org/10.1016/S2215-0366(23)00229-8

著者が非常に多いため書誌情報が長くなっていますが、題名のみを抜き出すと:
Organisational and student characteristics, fidelity, funding models, and unit costs of recovery colleges in 28 countries: a cross-sectional survey
28カ国のリカバリー・カレッジの組織と受講者の特徴、フィデリティ、資金調達、コスト:横断的調査
です。

この研究では、リカバリーカレッジが存在するすべての国(28カ国)のリカバリーカレッジに対して調査が行われました。行われた調査は、以下です。

  • リカバリーカレッジの組織や受講者の特徴
  • リカバリーカレッジの原則と考えられているものにどれくらい沿っているか(フィデリティ(忠実性)尺度RECOLLECT)
  • 資金調達はどうしているか、コストはどうなっているか

この調査で運営されていることが確認されたのは5大陸28カ国、221のカレッジで、そのうち174のカレッジが回答しました。

結果として、リカバリーカレッジの原則への忠実性は、多くのカレッジで高いスコアでしたが、地域によりその得点が異なるものもあり、「共同創造」や「それぞれの受講生に合わせ個別化する」という項目は、アジアのリカバリーカレッジでイギリスよりも低いという結果でした。

今回の調査に参加したカレッジ全体を合計すると、年間予算は3000万ユーロに上り、55161人の学生に19864のコースを提供していルことが明らかになりました。

以上が、この研究の要約です。

この研究で、アジアの方がイギリスよりも共同創造を行っているということと、受講者に合わせ個別化するという項目の得点が低いという結果となっています。その結果に対する考察として、リカバリー志向の実践がイギリスよりモアジアの方が低いという他の研究の結果とも一致している。それと同時に、西洋と東アジアでの異なる特徴、たとえば、同じ程度に行っていてもアジアの人の方が控えめに点をつける可能性や、アジアの方が集団主義の考え方が高く、個別性に合わせるということがその価値観に合わない可能性、精神疾患の当事者も参加していても医療者に異議を唱えたりしにくい可能性などが述べられています。

この英国の研究チームに、さまざまな国のリカバリーカレッジの研究者が参加していて、私も参加させていただいており、皆がとても熱心で感動します。
それぞれの国や地域の文化とリカバリーカレッジの関連については、このほかにも研究がなされていますので引き続きご紹介していきます。
東京大学コプロダクション研究チーム 宮本有紀

共同創造Co-production資料37 障害をもつ人との共同創造研究のガイドライン

資料36で紹介した、共同創造研究を行う際の倫理のガイドラインを見ていて、ニューサウスウェールズ大学(the University of New South Wales: UNSW)のDisability Innovation Institute (障害イノベーションセンター)からほかのガイドラインも出されていることがわかりました。

DOING RESEARCH INCLUSIVELY: Guidelines for Co-Producing Research with People with Disability (「誰もが参加できる研究をする:障害をもつ人と研究を共同創造するにあたってのガイドライン」←宮本の意訳)です。

Strnadová, I., Dowse, L., & Watfern, C. (2020). Doing Research Inclusively: Guidelines for Co-Producing Research with People with Disability. DIIU UNSW Sydney.  https://apo.org.au/node/310904

このガイドラインは、UNSWや他の学術研究者、障害当事者、障害関連組織やその他の関係者のために作成され、研究の共同創造を行うために、研究に誰でも参加できるようにと2019年に行われた障害に関する共同創造のワークショップに参加した人々から出てきた内容をまとめたものであると記載されています。

この文書では、共同創造から得られるもの、共同創造の原則、共同創造の方法が記載されています。

特に共同創造による研究を行う際の方法(strategy)に紙面が割かれています。

 

共同創造研究をするにあたり、誰がチームにいると良いか?共同創造をする共同研究者への謝礼はどうするか?会議の頻度や場所や進行、議事録管理、研究技術に関する研修、倫理申請、決定権の共有、チームメンバーへのサポート、どんな風にチームに関わり続けてもらうか、チームの安全を保つにはどうするか、その共同創造研究による効果をどのように評価するか、などが記載されていました。自分には考慮できていなかったことがたくさんあり、とても参考になりました。
東京大学コプロダクション研究チーム 宮本有紀

共同創造Co-production資料36 共同創造研究での倫理

共同創造というとリカバリーカレッジでの実践がすぐに思い浮かぶのですが、医療やケアの実践だけでなく、研究でも共同創造が大事だと言われるようになっています。

そんな中、「誰もが参加できる研究をする:共同創造を行う際の倫理のガイダンス」(かなりの意訳です。原題は「Doing Research Inclusively: Guidance on Ethical Issues in Co-production」)という、共同創造による研究を倫理的に行うためのガイドラインを見つけました。

Strnadová, I., Dowse, L., Garcia-Lee, B., Hayes, S., Tso, M., & Leach Scully, J. (2024). Doing Research Inclusively: Guidance on Ethical Issues in Co-Production. Disability Innovation Institute, UNSW Sydney. https://www.disabilityinnovation.unsw.edu.au/inclusive-research/guidelines

これは、オーストラリアのUniversity of New South Wales (UNSW)という大学のDisability Innovation Institute(障がいイノベーション研究所)という、2017年に設立されたセンターから公開されているものです。

共同創造研究が大事、市民共同参画の研究が大事、と言われていますが、いわゆる「研究者」と名乗ってきたわけではない人たち(患者、利用者、家族など)も研究に関わるということは、これまで医学研究の倫理等を考える際に想定されてきておらず、これまでの研究計画や倫理申請での「当たり前」とは異なる視点が必要とされています。このガイダンス文書は、共同創造研究を行う研究者が、研究計画を考えたりその研究の倫理申請をしたり、そのような研究の倫理的側面を審査する研究倫理委員会が理解を共有するために作られたそうです。

この文書には、研究者や倫理委員向けのPDF版と、情報を簡潔にわかりやすく書いたEasy Read版があります。

PDF版には、障害領域での研究における共同創造での倫理に関する重要点として、

  • 共同創造は誠実性を高める(CO-PRODUCTION ENHANCES INTEGRITY)
  • 申請過程に(共同創造研究者が)アクセスできない(INACCESSIBLE APPLICATION PROCESSES)
  • 申請過程における害(HARM IN THE APPLICATION PROCESS)
  • 共同創造についての誤った思い込み(COUNTERPRODUCTIVE ASSUMPTIONS)
  • 矛盾する倫理原則(CONFLICTING ETHICAL PRINCIPLES)
  • 倫理審査の過程に不慣れ(UNFAMILIARITY WITH THE PROCESS)
  • 経験と動機のばらつき(VARIABILITY IN EXPERIENCE AND MOTIVATION)
  • 対立ではなく学ぶ(EDUCATION RATHER THAN CONFRONTATION)

についてあげられています。また、この文書では特に以下の項目それぞれについて留意点、研究者として考えること、倫理委員会として考えることが記載されていました。

  • 共同創造での関係性(Relationships in Co-Production)
  • 共同創造の過程(Processes of Co-Production )
  • 共同創造における役割(Roles in Co-Production)
  • 共同創造で得られるものと危険(Benefit and Risk in Co-Production)
  • 共同創造における脆弱性と能力(Vulnerability and Capacity in Co-Production)
  • 共同創造の質(Quality in Co-Production)
  • 倫理的な共同創造によってよりよい実践を(Building Better Practice in Ethical Co-Production)

 

共同創造について、英国の資料を目にする機会が多いのですが、オーストラリアからもこのように資料が出されていて、それらが誰にでも読める形で公開されていることに、感謝を覚えますし、インターネットやAI翻訳などの普及で、伝達もされやすくなっているだろうと感じました。
もちろん、共同創造は参加する人によって異なるはずですし、文化が異なればもちろん共同創造のありかたも違うだろうとは思いますので、イギリスやオーストラリアのものも、ただそのまま日本に持ち込むというよりは日本での参加者の方たちと話し合っていくことが重要であるとは思います。
東京大学コプロダクション研究チーム 宮本有紀

 

 

共同創造Co-production資料34 精神保健医療研究での共同創造(青年期)

またまた研究の共同創造に関する文献です。World Psychiatryという精神医学領域の学術誌にここ数年、その疾患状況を経験した人(患者としての体験のある人)と学術関係者(研究者)によって執筆された論文が連続で掲載されています。

Fusar-Poli P, Estradé A, Esposito CM, Rosfort R, Basadonne I, Mancini M, Stanghellini G, Otaiku J, Olanrele O, Allen L, Lamba M, Alaso C, Ieri J, Atieno M, Oluoch Y, Ireri P, Tembo E, Phiri IZ, Nkhoma D, Sichone N, Siadibbi C, Sundi PRIO, Ntokozo N, Fusar-Poli L, Floris V, Mensi MM, Borgatti R, Damiani S, Provenzani U, Brondino N, Bonoldi I, Radua J, Cooper K, Shin JI, Cortese S, Danese A, Bendall S, Arango C, Correll CU, Maj M. The lived experience of mental disorders in adolescents: a bottom-up review co-designed, co-conducted and co-written by experts by experience and academics. World Psychiatry. 2024 Jun;23(2):191-208. doi: 10.1002/wps.21189. PMID: 38727047; PMCID: PMC11083893. https://doi.org/10.1002/wps.21189

(青少年における精神障害の体験:経験による専門家と学者の共同デザイン、共同実施、共同執筆によるボトムアップレビュー)

この研究は、自身の経験による専門家(experts by experience)(患者、その家族やケアする人)と学者からなる共同チームを立ち上げ研究を実施したとのことです。以前も同じ研究者の参加しているチームの論文(うつ、サイコーシス)をご紹介しました。このチームでたくさんの文献検討研究をしたということですね。)

この研究は、「青年期の精神障害の内的主観的体験」、「より広い社会での青年期精神障害者の体験」、「精神医療を受ける青年期精神障害者の体験」についてワークショップを開催し、全体として18人の当事者経験のある若者に参加してもらい、分析が行われたとのことです。

「青年期の精神障害の内的主観的体験」としては、気分障害では、アイデンティティの変化を経験する、圧倒されるような激しい感情の経験、自分の心の中に閉じ込められた感じ、周囲の世界が消えていくのを見る、精神病性障害では、生活世界と自己における広範な変化の経験、自ら出てしまった魚のように感じる、といった感じで、ADHD、自閉症スペクトラム障害、不安障害、摂食障害、外在化障害、自傷それぞれについて、当事者の声が掲載されている質的研究からの引用と、ワークショップに参加した当事者経験のある若者の声が掲載されています。

 

この論文を読んでいて、これまでの質的研究からの引用と、ワークショップに参加した若者の実体験から出ている言葉により、本人の体験が鮮やかに感じられた気がします。医学や看護学の教科書や疾患の理解は、本人以外の人からの視点で説明され、外側から見る視点が多いのですが、もっと知りたいのは本人にはどのような経験がされているか、だな、と改めて感じました。特に精神科領域では、本人にとっての個別のリカバリー、ご本人が生きやすくなることが何より重要なわけで、ご本人からの視点を知ること、そしてそれは皆違うということを知ることが重要だと感じました。
東京大学コプロダクション研究チーム 宮本有紀

共同創造Co-production資料33 精神科ケアでの患者参画

共同創造についてお話をさせていただく機会が時折あります。そのようなときに、「共同創造」はどんな場面で?と自分なりの整理に役立った、Tambuyzerさんというベルギーの方の論文がありまして、2011年の論文ですが、自分のメモのためにもこちらに紹介させていただきます。

ここでは、共同創造ではなく、patient involvement (患者参画)がテーマなのですが、共同創造と患者参画は重なりがある考え方ですので、共同創造の資料としても意義があると思っています。

(共同創造や、患者市民参画の考え方は、この10年でどんどん広まり発展している(と私は感じている)ので、もっとわかりやすい整理などもあるのかもしれないとは思いますが。)

Tambuyzer E, Pieters G, Van Audenhove C. Patient involvement in mental health care: one size does not fit all. Health Expect. 2014 Feb;17(1):138-50. doi: 10.1111/j.1369-7625.2011.00743.x. Epub 2011 Nov 10. PMID: 22070468; PMCID: PMC5060706. https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC5060706/

著者らは、患者参加・患者参画・患者の関与(どれも同じ意味で使っていますのでこの先は患者参加という用語を用います)の考え方があいまいなので、患者参加について記載されている文献を分析し、患者参加について包括的に述べる、という研究です。

著者らは、患者参加を高めたり妨げたりするものとして
(i)患者に対するコミュニケーションと情報提供
(ii)患者参加に対する医療従事者の態度
(iii)患者参加に利用できる財源と時間
(iv)患者参加に関するすべての関係者の教育と支援
(v)患者参加のための手続きの利用可能性
(vi)患者参加のための法的枠組みの存在
を挙げています。

また、患者参加が起きることによる短期的な成果としては
患者のエンパワメント、患者のリカバリー、患者の満足度、医療へのアクセスのしやすさ、医療の質の高さ、健康度の向上
を挙げていました。

さらに、著者らは、患者参加の場面を整理し、
第一に、個人レベル・ミクロレベル(例えば、その人自身のケアプラン、セラピストの選択、治療の選択に関する決定への参加)
第二に、医療サービスレベル・中間レベル(例として、医療機関の顧問委員会への参加など)
第三に、政策レベル・マクロレベル(精神科医療政策を共同で決定など)
そして、研究と教育を含むメタレベルを提案する
と述べていました。

著者らは、患者参加の整理がなされておらず、たとえば参加のはしごなどは患者の意思決定の度合いという一側面だけを用いているが、もっと包括的に考える必要がある。しかし、患者参加は、関わる人や状況によって異なるので、画一的なものではない、と結論付けていました。

 

この研究では、医療の受け手を便宜上「患者」と呼ぶが、受動的な存在とみなしているわけではない、と用語の説明のところで述べていたり、論文要旨の冒頭で、精神科医療への患者参加は倫理的に求められるものである、と述べていたり、私にとっては、重要だと思われることが記載されているなと感じた文献でした。また、患者参加の場面分けが私にとってはとてもイメージがしやすくなり、自分の考えの整理や、共同創造の場面の説明にもよく使わせていただいています。
東京大学コプロダクション研究チーム 宮本有紀