共同創造Co-production資料32 利用者や家族とのパートナーシップ

World Psychiatryという学術誌に掲載されていたWPA(世界精神科協会)ニュースの記事です。

Männikkö, M., Cano, G.M., Savage, M., Sunkel, C., Javed, A., Ng, R.M.K. and Amering, M. (2024), Report by the WPA Working Group on Developing Partnerships with Service Users and Family Carers (2020-2023). World Psychiatry, 23: 307-308. https://doi.org/10.1002/wps.21221

“Nothing about us without us!”(私たちのことは私たち抜きで決めるな)は今や当然の流れとなっていると思われ、全てのことをその状態の当事者とパートナーシップで行うことが求められるようになってきていると思います。
そんな中で、心理社会的障害のある人たち(精神健康不調の経験のある人たち)とのパートナーシップでの活動の例(評議会メンバーにその状態の実体験をもつ人たちが必ず入る、など)がこのニュースではいくつも挙げてあります。

World Psychiatryという雑誌では、精神疾患のある人との共同執筆論文の掲載が続いていたり、共同創造に関する論説があったりと、組織をあげて共同創造や患者市民とのパートナーシップによる活動を重視し、推し進めているのだなということをこのところひしひしと感じています。このように影響力のある団体や学術誌がこのように発信していくことの重要性を感じます。
東京大学コプロダクション研究チーム 宮本有紀

共同創造Co-production資料31 コ・プロダクションの理論と実践―参加型福祉・医療の可能性

共同創造について、斉藤弥生先生の
コ・プロダクションの理論と実践―参加型福祉・医療の可能性」2023年、大阪大学出版会 https://www.osaka-up.or.jp/book.php?isbn=978-4-87259-766-0
を拝読し、共同創造とうたっていなくても、日本でもこんなに多くの実践がなされていたのだなと気づきました。
保健医療領域で市民と共に作り上げ提供されている活動として以前から取り組まれてきたことに、医療協同組合等での実践があります。
この書籍では、斉藤先生とスウェーデンのVictor Pestoffらとの取り組みや、さまざまな協同組合での実践が紹介されており、とても興味深く、さまざまな組織やその在り方に関心がわきました。

それと同時に、以前からあった協同組合と共同創造が全く同じなのか、ほかにはどのような呼び名(?)のありかたがあるのか、など、考えたいことがたくさんあります。

共同創造というと、つい英国の情報や、オーストラリアなどの情報が目にはいってしまいますが、共同創造という言葉が使われる前から日本で以前から行われている実践や、北欧での住民参加実践などについてもっと知りたいと思わされました。
東京大学コプロダクション研究チーム 宮本有紀

共同創造Co-production資料30 精神保健医療研究での共同創造

またまた研究の共同創造に関する文献です

Soklaridis, S., Harris, H., Shier, R. et al. A balancing act: navigating the nuances of co-production in mental health research. Res Involv Engagem 10, 30 (2024). https://doi.org/10.1186/s40900-024-00561-7
(バランスをとる行為:精神保健医療研究における共同創造のニュアンス)

これは公開されている論文で、カナダのリカバリーカレッジで実際に共同創造に携わっている人たちが執筆している論文です。
この研究では、まず、著者らはどのような立場なのかを表1で記載していて、自分はどんな背景をもって、どんな社会階級で、というようなことがそれぞれの言葉で記載されています。

そして、この論文では、本人たちの参加型アクションリサーチで、自身たちの共同創造における4つの価値観

1. Navigating power relations together
権力や力関係に共に関与する

2. Multi-directional learning
多方面からの学び

3. Slow and steady wins the race
ゆっくりと着実に

4. Connecting through vulnerability
弱さを通してつながる

について記載しています。

この論文は、精神保健医療研究での共同創造、とタイトルにあり、実際にこの方たちで共同研究に取り組む中で生み出された研究であるということも記載されていますが、これは研究に限らず、共同創造のプロセスどれにも共通することかもしれないと感じました。

共同創造を本気で実践するのは簡単とは言い切れないと思いますが、そのことも含め、共同創造の過程で発見したことについてこのように記載されていることは貴重なことだと思いました。また、著者らが自分たちは何者なのか、研究者や研究対象としてどのように互いに関わるかについて考え、それをこの表のような形で記載していることに感銘を受けました。質的研究では、研究者がどのような立場でどのような視点でその研究に携わったかを記載することが多いと思いますが、量的研究では研究者は客観的な立場(というのがあたかもあるかのように)を求められ、研究者のことが言及されることはほぼありません。しかし、実際には研究者の背景、考え方はその視点や発言に大きな影響を与えており、そのことを無自覚なままに観察することの危険についてもこの論文から気づかされました。
東京大学コプロダクションチーム 宮本有紀

共同創造Co-production資料29 精神保健医療は経験した人々との対等なパートナーシップが必要

今回は研究論文ではなく、世界の精神科領域の医療者や研究者に広く読まれている学術誌の諭説の紹介です。

Fisher, H.L. (2024), The public mental health revolution must privilege lived experience voices and create alliances with affected communities. World Psychiatry, 23: 2-3. https://doi.org/10.1002/wps.21149

ここでは、

  • 「精神健康を保ったり、精神健康の改善するための施策の立案、実施、評価は、実際に精神的不調の経験をもつ人たちが、対等なパートナーシップで参加することが望ましい」
  • 「実際にその状態を経験した人たちが住民の精神健康を改善するような研究や施策を主導するようになることが理想である」
  • 「社会から疎外された人々がこのような対話に参加できるようになるためには、社会的・経済的な支援と柔軟性が必要であり、現在の社会を苦しいものにしている不平等を再生産しないために極めて重要である」
  • 「予防の取り組みがマイノリティのコミュニティと共同設計され、理想的には草の根組織や地域社会を基盤とする組織と協力して実施されるようにすることが極めて重要である」
  • 「 影響を受ける人々や地域社会が関与しなければ、提案されている公的な精神保健介入策の多くは失敗する運命にある」

といったことが記載されています。

これらのことは、リカバリーカレッジなどの共同創造に取り組んだ人から話を聞いたり、自分自身で取り組んだりしてみて、実感をもってその通りだと感じることばかりです。これまで、医療や研究の世界では、医療者や研究者の集めてきた知見が重視される傾向があったと思いますが、患者や当事者の声を聴くことの重要性、対等なパートナーシップの重要性について、このような学術誌の論説に掲載されるということには大きな意味があると感じました。これは、共同創造に触れた人たち、共同創造ではなかったとしても当事者の声に耳を傾けた人たちで、これは本当に重要なことだと実感する人たちが増え、そうしないでいる(当事者の声を取り入れずにいる)ことの危険性が実感され出したということでもあるのだろうなと感じます。
東京大学 コプロダクション研究チーム 宮本有紀

共同創造Co-production資料28 その状態の実体験を持つ人と専門職者との共同研究

共同創造は、さまざまな領域のさまざまな内容について実践することが可能であり、そして実際に取り組まれていることと思います。
保健医療福祉領域の研究についても、これまでは研究者・医療者が研究をする者、医療を提供する者の立場で実施し、発表されることがほとんどでしたが、最近では患者・利用者の方々が自身の声を保健医療福祉の学会等で発表されたり発信されることも増えています。
それに加え、近年では、少なくとも保健医療領域では、研究への市民患者参画が求められるようになってきており、研究を共同創造で行われることも増えてきました。

ここでは、World Psychiatryという精神医学領域の学術誌に掲載されている、その疾患状況を経験した人(患者としての体験のある人)と学術関係者(研究者)によって執筆された論文をご紹介させていただきます。

Fusar-Poli, P., Estradé, A., Stanghellini, G., Esposito, C.M., Rosfort, R., Mancini, M., Norman, P., Cullen, J., Adesina, M., Jimenez, G.B., da Cunha Lewin, C., Drah, E.A., Julien, M., Lamba, M., Mutura, E.M., Prawira, B., Sugianto, A., Teressa, J., White, L.A., Damiani, S., Vasconcelos, C., Bonoldi, I., Politi, P., Vieta, E., Radden, J., Fuchs, T., Ratcliffe, M. and Maj, M. (2023), The lived experience of depression: a bottom-up review co-written by experts by experience and academics. World Psychiatry, 22: 352-365. https://doi.org/10.1002/wps.21111
(実体験としてのうつ(うつの生きられた経験):経験による専門家と学者が共同で執筆したボトムアップレビュー)

Fusar-Poli, P., Estradé, A., Stanghellini, G., Venables, J., Onwumere, J., Messas, G., Gilardi, L., Nelson, B., Patel, V., Bonoldi, I., Aragona, M., Cabrera, A., Rico, J., Hoque, A., Otaiku, J., Hunter, N., Tamelini, M.G., Maschião, L.F., Puchivailo, M.C., Piedade, V.L., Kéri, P., Kpodo, L., Sunkel, C., Bao, J., Shiers, D., Kuipers, E., Arango, C. and Maj, M. (2022), The lived experience of psychosis: a bottom-up review co-written by experts by experience and academics. World Psychiatry, 21: 168-188. https://doi.org/10.1002/wps.20959
(実体験としてのサイコーシス(サイコーシスの生きられた体験):経験による専門家と学者が共同で執筆したボトムアップレビュー)

上記研究は、それぞれうつについてとサイコーシス(精神病様体験)について、実際に自身の生活の中でその状態を生きた方たちやその家族、学者でさまざまな年齢層、性別、文化的背景をもつ人々が参加して執筆されました。(最初の3人の著者が同じなので同じ文献のように見えてしまうかもしれませんが、別々の論文です)

たとえば、うつの体験についての研究では、患者利用者経験のある人、その家族、学者などにより構成された研究チームで、うつ状態について自身の言葉で語っている質的研究を集め、そこで記載されている内容からうつ状態の主観的世界、社会的・文化的文脈の中でのうつ状態の経験、うつからの回復の経験に分類されました。
その後、上記により分類された内容を、この研究チームに属していないより広い患者・家族ネットワークに見てもらい、特に中低所得国や性的、社会的マイノリティの方たちも含まれるようにしながら、フィードバックを得てさらに豊かな内容になりました。そして、それらをグーグルドライブで共有しながら多くの参加を得て共同執筆された論文で、執筆に参加された方々は共著者となっています。

このように、保健医療の領域で、患者や市民と共に研究をする取り組みは増えています。日本でも、たとえば国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)という研究開発と研究環境整備の組織から助成を受けた研究事業で患者市民参画(PPI)に取り組んだ事例を紹介したりしています。
https://www.amed.go.jp/ppi/ppipractice.html

 

従来は、医療者や学者が疾患や症状について解説をした文章が教科書となり、医療者への教育に使われてきたと思います。もちろん、医療者から見える状態像が記載されており、それが間違いであるわけではありませんが、この論文のように実体験をした本人たちの語りがまとめられること、そして、その実体験のある人たちが執筆の過程に参加することにより、そのまとめ方や表現のされ方が医療者・学者視点に偏ることなく記載され、その状態を経験している人にとって大切なことが発信されやすくなるということで、とても意義のあることだと思いました。
東京大学コプロダクション研究チーム 宮本有紀

共同創造Co-production資料27 共同創造の測定と評価 その3

コプロダクション(共同創造)の資料の紹介で、学術論文で、Measurement and outcomes of co-production in health and social care: a systematic review of empirical studies(医療と社会福祉における共同創造の測定と成果:システマティックレビュー) の内容を、できるだけわかりやすく紹介することに挑戦してみることの続き(その3)です。

書誌情報:
Nordin A, Kjellstrom S, Robert G, et alMeasurement and outcomes of co-production in health and social care: a systematic review of empirical studiesBMJ Open 2023;13:e073808. doi: 10.1136/bmjopen-2023-073808
https://bmjopen.bmj.com/content/13/9/e073808.long
公開されている論文なので、どなたでも読めますし、Google 翻訳などを用いて日本語にして読むことができると思います。

今回は、結果の内容の続きです。

共同創造の測定に何を用いているか?
質的研究では測定尺度は使われていません。
量的研究で無作為化比較試験では、その介入に関連した健康側面に関する尺度と、その介入そのものを評価する尺度が使われていました。
量的研究で無作為化比較試験ではない研究では、それぞれの研究に関連して測定尺度が独自に作られており、そのほかその共同創造介入に関連した健康側面に関する測定尺度も用いられていました。
介入研究ではない記述的な量的研究では、それぞれの共同創造介入に関連した測定尺度が用いられ、そのうち一つは共同創造の過程での経験を測定するのに、その過程の交流の生産性に関する認識を測定するRelational Coordination Scale (RCS) を用いていました。
質的研究と量的研究の混合研究であった25件では、さまざまな尺度が用いられていました。すでに妥当性が確認された尺度が用いられているもの、先行研究で用いられた尺度と用いているもの、独自に作った尺度を用いているものがありました。研究によっては、共同創造過程に参加する患者利用者の経験を測定する調査票を用いたり、オーストラリアの研究で、オーストラリアの国立衛生医学研究評議会(National Health and Medical Research Council’s (NHMRC))の原則にどれくらいのっとった介入であったかを測定しているものなどがありました。

共同創造の成果として何が報告されているか?
さまざまなものが共同創造の成果として報告されていました。
質的研究では、実行された変革、優先事項の確認、合意、作られたツールや、持続可能性などについて述べられていました。
無作為化比較試験では、患者利用者を対象とした2つの研究で共同創造介入がよい結果であったことが報告され、自傷行為の減少と精神的不調の減少が示され、共同創造によって開発されたデジタルツールを継続して使用したいと望んでいました。
量的研究と質的研究による混合研究では、多様な成果が報告されていました。それらは4つに大別することができ、共同創造の成果とその過程、うまくいった要因、参加者への影響、学習成果でした。
成果とその過程は、たとえばケアの改善、社会的ネットワークが強くなる、などでした。
成功要因として挙げてあったものは、参加すること、緊密な関わりなどが当てられていました。
参加者への影響としては、ウェルビーイングの向上、敬意と自信、エンパワメントなどがありました。
学習成果に関しては、共同創造により学習成果が得られ、そこで学んだ原則というのがその後の向上や共同創造の発展に価値あるものとして述べられていました。

実践への示唆
この文献検討を行ったことでわかったこととして、共同創造の成果を測定する尺度はなく、推奨できるようなものもなかった。
著者らは、共同創造の過程で、プロジェクトの目的達成のためだけに共同創造が使われてしまい、共同創造の民主的原則が顧みられなかったり、参加者はその過程でよい経験をしていると感じていてもプロジェクトの目的が達成されていないというようなことのバランスを取ることに言及しています。

結論
結論として、共同創造に関する研究は、さまざまな測定方法を用いており、共同創造のよい成果が報告されていた。
この文献検討から、今後、共同創造過程におけるアウトプット、共同創造に参加することの経験、共同創造の成果の3つの観点から測定されるべきであると考えられる。

この文献検討論文は重要な論文だと思いつつ、内容が少し難解だったり、読むことに根気がいる部分などがありました。ここでご紹介しようと思わなければ、読み通せなかったかもしれません。お付き合いくださった方(がいるとすれば)、ありがとうございました。
私としては、最後の結論に記載されていた、共同創造過程におけるアウトプット(共同創造によって作り出されたもの)、共同創造に参加することの経験、共同創造の成果(共同創造によって作り出されたものからもたらされる成果)の3つの観点から測定されるべきである、ということはとても納得のいくことでした。
東京大学コプロダクション研究チーム 宮本有紀

共同創造Co-production資料27 共同創造の測定と評価 その2

コプロダクション(共同創造)の資料の紹介で、学術論文で、Measurement and outcomes of co-production in health and social care: a systematic review of empirical studies(医療と社会福祉における共同創造の測定と成果:システマティックレビュー) の内容を、できるだけわかりやすく紹介することに挑戦してみることの続きです。

書誌情報:
Nordin A, Kjellstrom S, Robert G, et alMeasurement and outcomes of co-production in health and social care: a systematic review of empirical studiesBMJ Open 2023;13:e073808. doi: 10.1136/bmjopen-2023-073808
https://bmjopen.bmj.com/content/13/9/e073808.long
公開されている論文なので、どなたでも読めますし、Google 翻訳などを用いて日本語にして読むことができると思います。

今回は、結果の内容に入っていきたいと思います。

この文献検討でわかったことの抜粋
この研究では、実際に行われた共同創造のプロジェクトに関する研究43本が扱われています。
ここで文献検討の対象となった論文は、2012年から2019年の3月までに出版されたものでした。
そのうち23本が英国、6本がオーストラリアの研究で、そのほかの国を含め12か国からの研究でした。
これら43本の保健医療福祉に関する共同創造研究のうち、精神保健領域の文献が14本(英国から9件)と最も多い領域でした。

この論文(文献検討の結果を報告しているこの論文)内では、サービスを利用する人を指す言葉として「user」という言葉が使われており、このuserを私的に(専門職の責任としてではなく)サポートしたり助けたりしている人を「informal caregiver」、サービスを提供している人たちのことを「providers」として記すこととしたとの記載がありました。
(共同創造のことを記載するときに、誰のことをなんと呼ぶかはいつも迷うところなので、こういった記載は重要と思いました。)

これら43本の論文の目的は何であったか?
共同創造プロジェクトやその研究を開始した人は? プロジェクトや研究をuserからはじめたというものはまれでした。
質的研究で記載されていた目的:
サービス利用者とのコミュニケーションを向上する、サービスの改革を共に行いたい、保健医療福祉への患者利用者の参画を高め、利用者と支援者がそのサービスや質についてどのように認識しているかを評価したい
量的研究のうち無作為化比較研究:
どの研究も共同創造により行われた介入のアウトカム(成果)を評価することが目的で、2つの研究はデジタルツールを用いてよりタイミングよく、よりよいサポートを提供したいというもの、1つの研究は、研究への患者と市民の参画を増やしたいというもの、また別のものは共同創造介入を通じてスタッフの行動を改善しケアをより良いものにしたいというものでした。
量的研究で無作為化比較研究ではないもの:
3本とも、サービス利用者がそのサービスを利用する経験をよりよいものにしたい
量的記述的研究:
救急医療の利用を減らしたい、スタッフの態度を向上させるために共同創造についてe-ラーニングで学ぶことの評価、患者の健康と自己管理技術の向上のための共同創造によりつくられたプログラムの評価、ケアの質のデータを通じてケアを向上する、それらの過程を通じて共同創造を増やす、共同創造の関係を向上させることによってケアの過程を発展させる、保健医療福祉を統合し患者利用者のエンパワメントを向上することで共同創造の過程と患者アウトカムを向上させたい
質的研究と量的研究の混合研究:
不利なコミュニティをエンパワーする、暴力の発生率が高いところで共同創造を査定する、共同創造に参加することの経験を評価する、共同計画が患者の体験やサービスそのものを向上するかの評価、すでに行われている共同創造の過程をさらに向上させる、などを目的としていた。そして多くの混合研究の目的は、共同創造による情報提供やサービスによる成果の評価であった。
共同創造の成果としては、有効性と向上の度合いが主なものでした。そのほか、その共同創造によってつくられたものの受容性や実現可能性を測定していたり、それを利用してみての経験を評価していました。また、患者・利用者により主導された共同創造介入を評価することを目的としているものもありました。25の混合研究のうち、患者利用者から始められた研究であると報告しているものは1件のみでした。

共同創造についての研究にも、さまざまな目的があって、共同創造の過程に関心のあるもの、共同創造によってつくられるもの(サービスなど)の有効性を評価するもの、さまざまだなと思いました。
東京大学コプロダクション研究チーム 宮本有紀

共同創造Co-production資料27 共同創造の測定と評価 その1

コプロダクション(共同創造)の資料の紹介です。今回は、学術論文で、Measurement and outcomes of co-production in health and social care: a systematic review of empirical studies(医療と社会福祉における共同創造の測定と成果:システマティックレビュー) の内容を、できるだけわかりやすく紹介することに挑戦してみたいと思います。

書誌情報は以下の通りです
Nordin A, Kjellstrom S, Robert G, et alMeasurement and outcomes of co-production in health and social care: a systematic review of empirical studiesBMJ Open 2023;13:e073808. doi: 10.1136/bmjopen-2023-073808
https://bmjopen.bmj.com/content/13/9/e073808.long
公開されている論文なので、どなたでも読めますし、Google 翻訳などを用いて日本語にして読むことができると思います。

研究の概要(宮本の勝手な補足も含まれています)
背景
この研究が行われた背景としては、共同創造は医療や福祉の質を向上させる効果的な方法として推進されており、また研究もなされているものの、共同創造の成果の測定方法はさまざまであり、さまざまな共同創造の取り組みの全体的な成果をまとめて話すことが難しいということがあります。
目的
そこで、この研究では、医療と福祉の領域において行われた共同創造によるプロジェクトの研究では、その成果をどのように測定されているかを、たくさんの研究を読んでまとめました。
方法
たくさんの文献を読み、それをまとめることを学術論文では文献検討(review=レビュー)を行う、と表現しますが、この研究は、文献検討の中でも、スコーピングレビューという方法(体系的に文献を検索し、設定した基準に合った文献を全て読んでまとめる方法のうちの一つ)をとりました。
学術論文を検索するデータベースがいくつもあるのですが、そのうちのいくつかのデータベースを用いて、共同創造、共同制作といった概念を扱い、公共サービスの文脈で行われていた研究を検索し、その共同創造の過程や成果が掲載されている論文を調べました。
結果
その結果、43本の共同創造を実際に行って評価した研究が検討されました。これらの研究は、12か国で行われており、その半分以上は英国で行われた研究でした。6割の研究は、混合研究(量的研究と質的研究を組み合わせた研究)でした。それぞれの研究で共同創造の成果を測る尺度を独自に開発して用いられていたため、研究同士の比較や同じ観点での成果の蓄積はなかなかできませんでした。
全体的には、これらの研究では共同創造による成果は肯定的な結果でした。共同創造はポジティブな経験としてとらえられ、重要な学びがあったと報告されています。
結論
共同創造を測定するための共通の手法がないことは問題である。共同創造は、共同創造の過程から得られるもの、共同創造に参加する経験、共同創造の成果の3つの観点から測定されるべきものと考えられます。

この論文の内容を何回かに分けてご紹介したいと思います。

私たち自身が共同創造の研究に取り組んでおり、この論文は大切な論文なのではないかとコプロダクション研究チームのメンバーが紹介してくれました。
上記の研究の結論に記載されている3つの観点のうち、私は主に、共同創造の過程で生み出されるものや、そこに参加する人が共同創造の過程で学ぶこと(お互いについての理解が深まり、そのプロジェクトを提供する相手への理解や関心が高まり、そのプロジェクトへのやる気も高まる、など)に特に関心があるのだなと気づきました。
東京大学コプロダクション研究チーム 宮本有紀

共同創造Co-production資料26 その3: 精神保健領域で共同創造の原則を実践する

前々回前回に引き続き、Roper, Grey, Cadoganによる、Co-production: putting principles into practice in mental health contexts(共同創造の原則を精神保健領域での実践に取り入れる)
https://healthsciences.unimelb.edu.au/departments/nursing/about-us/centre-for-psychiatric-nursing/news-and-events/test
冊子のPDFはこちら
についてです。
Roper C, Grey F, Cadogan E. Co-production – Putting principles into practice in mental health contexts. 2018.

この冊子では、パワーについてたくさん書かれていて、パワーについて気づくことがテーマとなっていると拝読しました。その中でも今回ご紹介したいのは、どのようにパワーの不均衡に対応するかというところです。

パワー(力)の不均衡への対処

「コプロダクションでは、権力や力(パワー)の問題に意識して注意を払い、そこにパワーの違いがあることがわかったら、パワーの弱い人へとパワーをシフトさせるような行動を取るべきである」と記載されていて、そのやり方の例としていくつもの例が上がっていました。その中から抜粋すると:

  • 当事者がプロジェクトを主導できるよう支援し、資源を提供する。
  • 当事者がミーティングの議題を決め、特定の議題や活動に費やす時間を決める。
  • その取り組みの過半数が当事者であることを確認する
  • ガバナンス(管理等)をする当事者運営グループを設立する。
  • 会議の開始時に、サービス・システム(医療やその他の制度)に関わる際に力の喪失を経験した、または経験している人々を認める。
  • パワーのある人が席をはずす(物理的にその場を離れる)など、パワーのない人がパワーの不均衡が生じない形で検討したり議論したりする機会を作るなどもできる。
  • パートナーシップがどのように進んでいるかを見直す時間を定期的に設ける。
  • パートナーシップのあらゆる段階において、力の差に気づき、声を上げ、表に出し、対処するために、時間、思考、努力、計画を考慮する。
  • グループの目的を支援するために異議をはさまずに使用できる裁量資金
  •  「このグループの辞書」を作る:当事者(必ずしもそうでなくても)にとって不親切な言葉・助けにならない言葉は、コプロダクションの場では代替の言葉が使われる。

などがありました。

当事者を半数以上とする、伝わる言葉を使う、など、常に意識しておきたいことがたくさんあると感じました。それと同時に、この項で言われていたのが「どのような方策が助けとなりそうか、どれをやってみるかは特に当事者が主導して決める」ということです。

 

良かれと思って先回りして何かをするのではなく、共に取り組む人と話し合いながらやっていくことが重要だと思いました。事前に考えて「気を利かせる」というようなことをしてしまいがちですが、コプロダクションに限らず、互いに声に出しながら決めていく、声を出しやすい環境を作る、ということが何より大事なのだと感じています。声を出しやすい環境を作るためには自分の醸し出してしまう空気や圧にも気付く必要があり、それにも意識を向けて。

東京大学 コプロダクション研究チーム 宮本有紀

 

 

共同創造Co-production資料26 その2: 精神保健領域で共同創造の原則を実践する

前回に引き続き、Roper, Grey, Cadoganによる、Co-production: putting principles into practice in mental health contexts(共同創造の原則を精神保健領域での実践に取り入れる)
https://healthsciences.unimelb.edu.au/departments/nursing/about-us/centre-for-psychiatric-nursing/news-and-events/test
冊子のPDFはこちら
についてです。
Roper C, Grey F, Cadogan E. Co-production – Putting principles into practice in mental health contexts. 2018.

ここでは、old power(旧来のパワー)、new power(新しいパワー)について対比されていて

旧来のパワー(権力)の価値観では、

  • 管理主義、制度主義、代表統治
  • 排他性、競争、権威、資源の統合
  • 裁量、守秘義務、私的領域と公的領域の分離
  • プロフェッショナリズム、専門化
  • 長期的な所属と忠誠心
    全体を通じての参加は少ない

新しいパワーの価値観

  • 非公式、参加意思のある人たちによる意思決定、自己組織化、ネットワークガバナンス
  • オープンソースコラボレーション、集団の知恵、共有
  • 根本的な透明性
  • DIY、作る文化
  • 短期的、条件付き所属
    全体を通じての参加はより多い

Source: Jeremy Heimans and Henry Timms, 2014

として挙げられていました。

ちなみに、
Jeremy Heimans and Henry Timms, 2014 とは
Heimans, J., & Timms, H. (2014). Understanding “New Power”. Harvard Business Review, https://hbr.org/2014/12/understanding-new-power
です。

コプロダクションに大切なこととして、

  1. その取り組みに関わる全員が、コプロダクションとその取り組みに賛同し、その両方を擁護する意思がある。個人や組織の中途半端な参加は、グループの活動を前進させるのに十分ではなく、有害になる可能性がある。
  2. 組織の背景などがある場合、関連組織内のリーダーや意思決定者が、コプロダクションとその取り組みの両方について、始める前から理解し、支援すること。
  3. 関係者全員が、リスクを取ることを厭わない。コ・プロダクションは、仕事とパートナーシップに取り組む新しい方法である。計画して熟慮しつつリスクを取ることは、その過程で見出されていく新しいパワーやさまざまな動き方の利点を認識するために必要である。
  4. グループ内の人々にコプロダクションへの対応力がない場合、コプロダクションの専門知識と支援へのアクセスが必要である。

が挙げられていました。

 

これまでの常識のようなものが旧来の力として新しいものの発現や創造を妨げてしまうことがあり、新しい考え方や新しい価値観にひらかれている、ということがコプロダクションで重要なことだということを感じます。それと同時に、自分は新しい価値観や自分と異なる考え方にひらかれているだろうか、自分が思っていることとは違う意見がたくさん出てきたときに、その場にとどまり一緒に作っていこうと思うには、何のために、というミッション(?)と、互いへの信頼や敬意が必要だな、と感じました。
東京大学 コプロダクション研究チーム 宮本有紀