共同創造Co-production資料42: 大学での精神保健研究の患者市民参画

今回も、研究の共同創造に関連する資料のご紹介です。

論文情報:

Evans J, Da Cunha Lewin C, Fabian H, et al. Facilitators of and barriers to patient and public involvement in mental health research within university settings: a systematic review and meta-synthesis. Psychological Medicine. 2025;55:e297. https://doi.org/10.1017/S0033291725101748

題名は、
Facilitators of and barriers to patient and public involvement in mental health research within university settings: a systematic review and meta-synthesis
(大学における精神保健研究への患者・市民参加の促進要因と障壁:系統的レビューとメタ統合)
です。

研究領域で、患者・市民参画(Patient and Public Involvement: PPI)が重視されるようになってきています。
(このPPIと共同創造は、完全に同じというわけではありませんが、その根底にある価値観は重なっていると思っております。)

この研究では、研究データベースを検索して文献を収集し、最終的には51件の論文から精神保健領域での患者市民参画に関する障壁と促進要因をまとめました。また、この研究には、精神疾患の当事者経験をもつ研究者達が参加していると記載されています。

研究を構築するにあたっての手続き的な面では、PPIのための資金や人材が限られていたり、競争的環境、時間的制約などが障壁として挙げられ、PPIを促進するのに役立つ仕組みとしては、申請にPPIを入れ込むことが挙げられていました。

また、研究の過程での力の不均衡、たとえば研究者が研究プロセスを握っていることも障壁として挙げられていました。また、参加している人たちの多様性が欠如しており、社会から疎外されている人種や識字に困難のある人々がしばしば排除されることについての懸念が挙げられていました。

PPIに価値を置かない組織文化も大きな障壁とされており、研究者がPPIを新しい仕事の方法としてとらえ、当事者経験の価値についてのトレーニングも必要なのではないか、と記されています。

人間関係の構築、オープンで誠実で定期的なコミュニケーションはPPIを促進する要因とされていました。

参加者は、研究や学術的な環境に慣れていないことからくる自信のなさを体験することも多く、参加者が尊重され、意見を言ってみようと思えるような、強力的な環境、安全な空間の重要性も挙げられていました。

今後の研究への市民参画に関する示唆として、権力の再分配(the redistribution of power)、能力開発(building capacity)、安全な取り組み環境(safe working environments)が挙げられていました。

能力開発に関しては、当事者に研究に関するトレーニングを提供することに重点が置かれているが、研究者の能力開発にはあまり焦点があげられていなかったことも、この研究の発見として記載されています。

 

この論文を読みながら、発言しても大丈夫と思えるチーム、安全と感じられるような配慮を互いに行えるチームは、患者・市民だけでなく、研究者にとっても重要であると感じました。また、患者や市民に研究のスキルを研修することに重点が置かれがちで、研究者が生活体験に関する価値を学ぶトレーニングを積むことなどはあまりなされていないということにも思い当たるところが多々ありました。
東京大学コプロダクション研究チーム 宮本有紀

共同創造Co-production資料41: メンタルヘルス科学の第三の柱

研究の共同創造(Co-production)に関する論文がたくさん出版されるようになっており、研究を共同創造でやっていこうという流れが大きくなっているのを感じます。

今回も、研究の共同創造に関連する資料のご紹介です。

論文情報:

Downs J. Beyond the methodological binary: coproduction as the third pillar of mental health science. BMJ Mental Health. 2025;28:e301807. https://doi.org/10.1136/bmjment-2025-301807

題名は、
Beyond the methodological binary: coproduction as the third pillar of mental health science
(方法論の二元論を超えて:メンタルヘルス科学の第三の柱としての共同創造)
です。

この論文では、コプロダクションは理論的理想ではなく、臨床的にも倫理的にも必要なものであるとして、メンタルヘルス領域の研究を質的研究、量的研究といった方法論の二元論を超え、本質的な探究の柱としてコプロダクションを提案しています。

この論文は、conceptual review(概念レビュー)というものを行っていて、文献(研究論文)を検索してヒットしたいろいろな研究や自信の経験から整理して、意味を深く考えながら検証する概念分析という方法でまとめています。

この論文に記載されていることの全てをここで紹介することはしませんが、たとえば、コプロダクションの必要性の項では、人種差別のあるコミュニティ、LGBTQ+の人々、複雑なトラウマの歴史を持つ人々など、社会から疎外されたグループや排除されがちな人々の声を中心に据えた研究などの例が挙げられていました。

また、コプロダクションの倫理的課題として、見かけだけの参加(Tokenism)、感情労働(Emotional labour)、力の不均衡(Power imbalances)、選出や代表性(Selection and representation)、構造的な障壁(Structural barriers)が挙げられていました。

 

ここ数年で研究をコプロダクションで!という論文がたくさん出ていて、読むことすら追いつかない感じです。さまざまなところからこのような声が出て、コプロダクションが当たり前になっていくのだろうな、と思っています。
東京大学コプロダクション研究チーム 宮本有紀

 

共同創造Co-production資料40: 精神障害・発達障害の当事者参画推進に向けたガイダンス

共同創造に関連する資料のご紹介です。

精神障害・発達障害の当事者参画推進に向けたガイダンス
https://porque.tokyo/2025/04/22/guidelines-for-ppi/
です。
これは、一般社団法人精神障害当事者会ポルケさんによるもので、
「精神障害・発達障害のある人の会合出席に期待される合理的配慮チェックリスト」は
会議参加前の合理的配慮、会議中の合理的配慮、会議参加後の合理的配慮の合計17項目が一覧になっており、さらに、その後のページでそれぞれの項目についての解説がついています。

たとえば、
(2)会議参加中の合理的配慮
には、項目7から12までの6項目があり、そのうち
「No.10 適度な休憩と時間配分の配慮」
という項目に対する解説として、

長時間に及ぶ会議は、当事者にとって疲労や緊張から体調を崩す要因になり得ます。そのため、1時間おき程度に短い休憩時間を設定する、休憩のタイミングを議事に明示して見通しを立てやすくする、といった配慮が重要です。「休憩が欲しい時は遠慮なくお知らせください」等と最初に断っておくことは重要です。休憩中は別室で静養できるよう控室を用意したり、飲み物を提供したりすることも検討します。時間配分についても、あらかじめ「本日の会議は○時まで」と定刻終了を徹底し、議論が白熱しても時間内に終わらせる運営を心掛けます。定刻を大幅に過ぎる長引く会議は集中力が切れ当事者に大きな負担となります。

という解説がついています。(精神障害・発達障害の当事者参画推進に向けたガイダンス p.7より引用)

またこのガイダンスには、実際に行政会議に参画している方たちへのインタビュー結果の報告も掲載されており、行政会議の参画にあたっての困難のカテゴリー一覧などがあり、この結果は行政会議への参画についてのものではありますが、あらゆるミーティングなどに当てはめて考えることのできるものなのではないかと思われます。

このような、日本での取り組みがあること、とてもすばらしいことで、さらに、それをこんな風にわかりやすく発信してくださっていることにも感謝ばかりです。
また、記事内で引用した、「適度な休憩と時間配分の配慮」は、精神障害・発達障害のある人に限らずとても重要な要素だと思っています。私自身が集中力の持続する時間がそれほど長くなく、また、トイレにすぐに行きたくなる、水分摂取ができるかどうかが気になる、いつ終わるのか気になるなどがあります。こうして誰にとっても参画しやすい場が増えていくことは重要だなと感じましたし、障害のあるなしに関わらず、自分が参加しやすくなるために必要なことを表現していくことは重要だと感じました。
東京大学コプロダクション研究チーム 宮本有紀

【活動報告】精神障害・発達障害のある人の当事者参画推進にむけたガイダンスの発行(令和6年度「キリン・福祉のちから開拓事業」助成事業)

共同創造Co-production資料39: 精神科領域の共同創造に関するレビュー論文

共同創造に関する論文の紹介です。

コ・プロダクション(共同創造)に関する実践や実践に関する研究が広がっています。今回ご紹介するのは、精神保健サービス(精神科医療や福祉)における共同創造の考え方についてのレビュー(文献検討論文)です。

論文情報:

Norton MJ. Co-production and mental health service provision: a scoping review. Irish Journal of Psychological Medicine. Published online 2025:1-14. doi:10.1017/ipm.2025.16
https://doi.org/10.1017/ipm.2025.16

題名は、
Co-production and mental health service provision: a scoping review.
(共同創造と精神保健サービスの提供:スコーピング・レビュー)
です。

共同創造に関する論文は多数発表されていますが、この文献研究では、精神保健領域でのリカバリーの考え方と共同創造の原則について文献検討をすることを目的とし、著者の設定した基準により、10本の論文を文献検討の対象論文としています。

共同創造の定義:この10件の研究のうち、共同創造という用語の定義を提示していた8件の研究で、「すべての利害関係者が共通の目標に向かって協力する」、「権力の再分配」、「プロセスに関与する利害関係者が多分野からであること」などが共同創造の定義として述べられていました。

共同創造の利点:困難の経験について話し合うための場ができる、少数派の声を聴くことができるなどは複数の研究で述べられていた。ほかには、それぞれ研究により述べられる利点が異なっていました。

共同創造のデメリット:デメリットを述べた研究では、組織文化がまずあげられていました。時間不足やリソース不足なども個々に含まれる。また、共同創造を行う力の不足も挙げられていました。

この文献検討対象となった研究の中には、急性期入院医療で共同創造を実践することでリスクが軽減されるという示唆があったことは新しいと述べられていました。

考察では、共同創造の考え方が抽象的であり、より理論的な研究が必要であることや、解釈主義的でまだ測定不可能な概念であるのに対し、実証主義的な概念(エビデンスに基づく実践など)との葛藤についても触れられています。

共同創造にとても関心があり、リカバリーカレッジ実践にも参加させていただいています。しかし、共同創造の定義とは、とか、共同創造の目的とか、「真の共同創造」なのかどうなのか、とかなると、はっきりと明言出来ない自分がいます。このレビューを読んでもやっぱりよくわからない、という気持ちになり、結局やっぱり共同創造の定義等は難しいのだな、とあらためて思いました。
東京大学コプロダクション研究チーム 宮本有紀

共同創造Co-production資料38 精神健康に関する言葉

さまざまな経験をもつ人たちとお話しするときに、これまで医学の領域で使われていたような言葉(病識がない、とか、統合失調症患者、とか)は、何かとても失礼な言葉だったのではないか?と思うようになり、そして、医療者の視点から使っていた言葉でこれまで思考し、行動してきてしまったのではないか?と気づき始めました。

“ケアとサポートで私たちが使う言葉は、態度を形成し、行動に影響を与え、人生に影響を与える。” (Think Local Act Personal. Language.)

Language

ということで、Think Local Act Personalにケアやサポートの領域における言葉「Language」に関する資料がいくつもアップされていました。

そしてその中に、「精神健康に関する言葉」ということで、ケアや支援を利用する人とその領域で働いている人とで作られたガイド(ページ)が掲載されていましたのでご紹介です。

Communicating about mental health

たとえば

Mental health challenges

This is our preferred term for communicating about mental health conditions. We think ‘challenges’ focuses less on something being ‘wrong’ with a person, and more on the difficulties people face with their mental health due to things that have happened to them or are happening around them, and also difficulties with getting support that works for them.

(日本語に勝手に訳してみると↓)

メンタルヘルスの課題(チャレンジ)
これは、私たちが精神健康上の状態について伝える際に好んで使う言葉です。 私たちは、”課題 (チャレンジ)”という言葉は、その人の何かが “悪い “ということよりも、その人の身の回りで起きたことや起こっていること、またその人に合ったサポートを受けることの難しさによって、その人が精神的な健康に直面する難しさに焦点を当てたものだと考えています。

というような解説があります。

 

これは英語の言葉についてのガイドなのですが、これを日本語に訳すというよりも、日本の人にとっての好ましい日本語の言葉を考えることが重要なのだろうと思います。また、言葉は、時代と共に変わっていくものですのでどの言語だったとしても、継続的なアップデートは必要なのでしょう。
私自身は、臨床実践や、講義や研究をする中で、これまで、失礼な表現や、言われた人が傷つくような言葉をたくさん使ってきてしまったと思っています。そのことを考えるだけで申し訳ない思いになりますし、自分に対しても悲しくなります。しかし、今後誰かを傷つけることを恐れて何も言わないのではなく、なんという表現が良いか、共同創造の中で確認しながら、そしてお互いに勇気をもって思ったことを差し出し合える、そんな関係を築いて進めていけたらと感じています。

東京大学コプロダクション研究チーム 宮本有紀

共同創造Co-production資料37 障害をもつ人との共同創造研究のガイドライン

資料36で紹介した、共同創造研究を行う際の倫理のガイドラインを見ていて、ニューサウスウェールズ大学(the University of New South Wales: UNSW)のDisability Innovation Institute (障害イノベーションセンター)からほかのガイドラインも出されていることがわかりました。

DOING RESEARCH INCLUSIVELY: Guidelines for Co-Producing Research with People with Disability (「誰もが参加できる研究をする:障害をもつ人と研究を共同創造するにあたってのガイドライン」←宮本の意訳)です。

Strnadová, I., Dowse, L., & Watfern, C. (2020). Doing Research Inclusively: Guidelines for Co-Producing Research with People with Disability. DIIU UNSW Sydney.  https://apo.org.au/node/310904

このガイドラインは、UNSWや他の学術研究者、障害当事者、障害関連組織やその他の関係者のために作成され、研究の共同創造を行うために、研究に誰でも参加できるようにと2019年に行われた障害に関する共同創造のワークショップに参加した人々から出てきた内容をまとめたものであると記載されています。

この文書では、共同創造から得られるもの、共同創造の原則、共同創造の方法が記載されています。

特に共同創造による研究を行う際の方法(strategy)に紙面が割かれています。

 

共同創造研究をするにあたり、誰がチームにいると良いか?共同創造をする共同研究者への謝礼はどうするか?会議の頻度や場所や進行、議事録管理、研究技術に関する研修、倫理申請、決定権の共有、チームメンバーへのサポート、どんな風にチームに関わり続けてもらうか、チームの安全を保つにはどうするか、その共同創造研究による効果をどのように評価するか、などが記載されていました。自分には考慮できていなかったことがたくさんあり、とても参考になりました。
東京大学コプロダクション研究チーム 宮本有紀

共同創造Co-production資料36 共同創造研究での倫理

共同創造というとリカバリーカレッジでの実践がすぐに思い浮かぶのですが、医療やケアの実践だけでなく、研究でも共同創造が大事だと言われるようになっています。

そんな中、「誰もが参加できる研究をする:共同創造を行う際の倫理のガイダンス」(かなりの意訳です。原題は「Doing Research Inclusively: Guidance on Ethical Issues in Co-production」)という、共同創造による研究を倫理的に行うためのガイドラインを見つけました。

Strnadová, I., Dowse, L., Garcia-Lee, B., Hayes, S., Tso, M., & Leach Scully, J. (2024). Doing Research Inclusively: Guidance on Ethical Issues in Co-Production. Disability Innovation Institute, UNSW Sydney. https://www.disabilityinnovation.unsw.edu.au/inclusive-research/guidelines

これは、オーストラリアのUniversity of New South Wales (UNSW)という大学のDisability Innovation Institute(障がいイノベーション研究所)という、2017年に設立されたセンターから公開されているものです。

共同創造研究が大事、市民共同参画の研究が大事、と言われていますが、いわゆる「研究者」と名乗ってきたわけではない人たち(患者、利用者、家族など)も研究に関わるということは、これまで医学研究の倫理等を考える際に想定されてきておらず、これまでの研究計画や倫理申請での「当たり前」とは異なる視点が必要とされています。このガイダンス文書は、共同創造研究を行う研究者が、研究計画を考えたりその研究の倫理申請をしたり、そのような研究の倫理的側面を審査する研究倫理委員会が理解を共有するために作られたそうです。

この文書には、研究者や倫理委員向けのPDF版と、情報を簡潔にわかりやすく書いたEasy Read版があります。

PDF版には、障害領域での研究における共同創造での倫理に関する重要点として、

  • 共同創造は誠実性を高める(CO-PRODUCTION ENHANCES INTEGRITY)
  • 申請過程に(共同創造研究者が)アクセスできない(INACCESSIBLE APPLICATION PROCESSES)
  • 申請過程における害(HARM IN THE APPLICATION PROCESS)
  • 共同創造についての誤った思い込み(COUNTERPRODUCTIVE ASSUMPTIONS)
  • 矛盾する倫理原則(CONFLICTING ETHICAL PRINCIPLES)
  • 倫理審査の過程に不慣れ(UNFAMILIARITY WITH THE PROCESS)
  • 経験と動機のばらつき(VARIABILITY IN EXPERIENCE AND MOTIVATION)
  • 対立ではなく学ぶ(EDUCATION RATHER THAN CONFRONTATION)

についてあげられています。また、この文書では特に以下の項目それぞれについて留意点、研究者として考えること、倫理委員会として考えることが記載されていました。

  • 共同創造での関係性(Relationships in Co-Production)
  • 共同創造の過程(Processes of Co-Production )
  • 共同創造における役割(Roles in Co-Production)
  • 共同創造で得られるものと危険(Benefit and Risk in Co-Production)
  • 共同創造における脆弱性と能力(Vulnerability and Capacity in Co-Production)
  • 共同創造の質(Quality in Co-Production)
  • 倫理的な共同創造によってよりよい実践を(Building Better Practice in Ethical Co-Production)

 

共同創造について、英国の資料を目にする機会が多いのですが、オーストラリアからもこのように資料が出されていて、それらが誰にでも読める形で公開されていることに、感謝を覚えますし、インターネットやAI翻訳などの普及で、伝達もされやすくなっているだろうと感じました。
もちろん、共同創造は参加する人によって異なるはずですし、文化が異なればもちろん共同創造のありかたも違うだろうとは思いますので、イギリスやオーストラリアのものも、ただそのまま日本に持ち込むというよりは日本での参加者の方たちと話し合っていくことが重要であるとは思います。
東京大学コプロダクション研究チーム 宮本有紀

 

 

共同創造Co-production資料35 Co-production collective(共同創造に関する組織)

共同創造について調べたい時に、「co-production」という言葉でインターネットを検索するとさくさんの情報がヒットします。(正直なところ、読みたい情報が多すぎて、もうなかなか間に合わないのですが)

今回は
Co-Production Collective https://www.coproductioncollective.co.uk/
という集まり(組織?)についてのメモです。

Co-Production Collectiveという組織は、元は、ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン(University College London = UCL)という大学のメンバーも設立にかかわっているようです。現在はUCLの、Co-Production and Public Engagement at UCL https://www.ucl.ac.uk/public-engagement/ の一部になっているようです。2017年にできたようで、「医療の研究、革新、実践における共同創造をサポートするセンター」を共同設立しようと集まったとのことで元はUCLコプロダクションセンターという呼び名だったそうです。

この集まりには、なんらかの当事者としての経験がある人、市民、研究者、その他共同創造が実践されている職場で働いている人などが参加しているそうで、自分達に支払われる謝金や方針なども共同創造で決めているとのことです。

資料の掲載 https://www.coproductioncollective.co.uk/championing-co-production/resource-library や、一緒に共同創造しましょう!という募集などさまざまな情報があります。

 

この組織の活動を補佐しているチーム(事務局的な?)や相談に乗ってくれるチーム(さまざまな経験のバックグラウンドのある人々)などについても、写真付きで公開されていて(おそらく載せて良い人だけですが)、そこに人間がいることを感じることができました。また、こういった活動をしていくためにもつながり方や役割がいろいろあることや、誰かがどこかで決めているということではなく、そこに参加している人が見える、ということにも意味がありそうだなと感じました。
日本でもこんなことができたらいいな、しかも、いろいろなところで(誰もがアクセスしやすい各地に)できたらいいな、と思ったりしています。
東京大学コプロダクション研究チーム 宮本有紀

 

共同創造Co-production資料34 精神保健医療研究での共同創造(青年期)

またまた研究の共同創造に関する文献です。World Psychiatryという精神医学領域の学術誌にここ数年、その疾患状況を経験した人(患者としての体験のある人)と学術関係者(研究者)によって執筆された論文が連続で掲載されています。

Fusar-Poli P, Estradé A, Esposito CM, Rosfort R, Basadonne I, Mancini M, Stanghellini G, Otaiku J, Olanrele O, Allen L, Lamba M, Alaso C, Ieri J, Atieno M, Oluoch Y, Ireri P, Tembo E, Phiri IZ, Nkhoma D, Sichone N, Siadibbi C, Sundi PRIO, Ntokozo N, Fusar-Poli L, Floris V, Mensi MM, Borgatti R, Damiani S, Provenzani U, Brondino N, Bonoldi I, Radua J, Cooper K, Shin JI, Cortese S, Danese A, Bendall S, Arango C, Correll CU, Maj M. The lived experience of mental disorders in adolescents: a bottom-up review co-designed, co-conducted and co-written by experts by experience and academics. World Psychiatry. 2024 Jun;23(2):191-208. doi: 10.1002/wps.21189. PMID: 38727047; PMCID: PMC11083893. https://doi.org/10.1002/wps.21189

(青少年における精神障害の体験:経験による専門家と学者の共同デザイン、共同実施、共同執筆によるボトムアップレビュー)

この研究は、自身の経験による専門家(experts by experience)(患者、その家族やケアする人)と学者からなる共同チームを立ち上げ研究を実施したとのことです。以前も同じ研究者の参加しているチームの論文(うつ、サイコーシス)をご紹介しました。このチームでたくさんの文献検討研究をしたということですね。)

この研究は、「青年期の精神障害の内的主観的体験」、「より広い社会での青年期精神障害者の体験」、「精神医療を受ける青年期精神障害者の体験」についてワークショップを開催し、全体として18人の当事者経験のある若者に参加してもらい、分析が行われたとのことです。

「青年期の精神障害の内的主観的体験」としては、気分障害では、アイデンティティの変化を経験する、圧倒されるような激しい感情の経験、自分の心の中に閉じ込められた感じ、周囲の世界が消えていくのを見る、精神病性障害では、生活世界と自己における広範な変化の経験、自ら出てしまった魚のように感じる、といった感じで、ADHD、自閉症スペクトラム障害、不安障害、摂食障害、外在化障害、自傷それぞれについて、当事者の声が掲載されている質的研究からの引用と、ワークショップに参加した当事者経験のある若者の声が掲載されています。

 

この論文を読んでいて、これまでの質的研究からの引用と、ワークショップに参加した若者の実体験から出ている言葉により、本人の体験が鮮やかに感じられた気がします。医学や看護学の教科書や疾患の理解は、本人以外の人からの視点で説明され、外側から見る視点が多いのですが、もっと知りたいのは本人にはどのような経験がされているか、だな、と改めて感じました。特に精神科領域では、本人にとっての個別のリカバリー、ご本人が生きやすくなることが何より重要なわけで、ご本人からの視点を知ること、そしてそれは皆違うということを知ることが重要だと感じました。
東京大学コプロダクション研究チーム 宮本有紀

共同創造Co-production資料33 精神科ケアでの患者参画

共同創造についてお話をさせていただく機会が時折あります。そのようなときに、「共同創造」はどんな場面で?と自分なりの整理に役立った、Tambuyzerさんというベルギーの方の論文がありまして、2011年の論文ですが、自分のメモのためにもこちらに紹介させていただきます。

ここでは、共同創造ではなく、patient involvement (患者参画)がテーマなのですが、共同創造と患者参画は重なりがある考え方ですので、共同創造の資料としても意義があると思っています。

(共同創造や、患者市民参画の考え方は、この10年でどんどん広まり発展している(と私は感じている)ので、もっとわかりやすい整理などもあるのかもしれないとは思いますが。)

Tambuyzer E, Pieters G, Van Audenhove C. Patient involvement in mental health care: one size does not fit all. Health Expect. 2014 Feb;17(1):138-50. doi: 10.1111/j.1369-7625.2011.00743.x. Epub 2011 Nov 10. PMID: 22070468; PMCID: PMC5060706. https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC5060706/

著者らは、患者参加・患者参画・患者の関与(どれも同じ意味で使っていますのでこの先は患者参加という用語を用います)の考え方があいまいなので、患者参加について記載されている文献を分析し、患者参加について包括的に述べる、という研究です。

著者らは、患者参加を高めたり妨げたりするものとして
(i)患者に対するコミュニケーションと情報提供
(ii)患者参加に対する医療従事者の態度
(iii)患者参加に利用できる財源と時間
(iv)患者参加に関するすべての関係者の教育と支援
(v)患者参加のための手続きの利用可能性
(vi)患者参加のための法的枠組みの存在
を挙げています。

また、患者参加が起きることによる短期的な成果としては
患者のエンパワメント、患者のリカバリー、患者の満足度、医療へのアクセスのしやすさ、医療の質の高さ、健康度の向上
を挙げていました。

さらに、著者らは、患者参加の場面を整理し、
第一に、個人レベル・ミクロレベル(例えば、その人自身のケアプラン、セラピストの選択、治療の選択に関する決定への参加)
第二に、医療サービスレベル・中間レベル(例として、医療機関の顧問委員会への参加など)
第三に、政策レベル・マクロレベル(精神科医療政策を共同で決定など)
そして、研究と教育を含むメタレベルを提案する
と述べていました。

著者らは、患者参加の整理がなされておらず、たとえば参加のはしごなどは患者の意思決定の度合いという一側面だけを用いているが、もっと包括的に考える必要がある。しかし、患者参加は、関わる人や状況によって異なるので、画一的なものではない、と結論付けていました。

 

この研究では、医療の受け手を便宜上「患者」と呼ぶが、受動的な存在とみなしているわけではない、と用語の説明のところで述べていたり、論文要旨の冒頭で、精神科医療への患者参加は倫理的に求められるものである、と述べていたり、私にとっては、重要だと思われることが記載されているなと感じた文献でした。また、患者参加の場面分けが私にとってはとてもイメージがしやすくなり、自分の考えの整理や、共同創造の場面の説明にもよく使わせていただいています。
東京大学コプロダクション研究チーム 宮本有紀